ABC上方落語をきく会は、テレビでラジオ聴くのをやめて、スマホで聴いたら昼席夜席とも18日まで聴けた。
なんでかよくわからないけど。
ともかく、年1回のこの会を聴くためにradikoプレミアムに入っている、とは言い過ぎだが、でもそれぐらいの気概はいつもある。ありがたい。
昨日予告したとおり桂南天師の「壺算」を取り上げようと。
ただしもうひとつ取り上げる。そして演題だけでインパクト強いので、今日の表題に。
桂三実さんはNHK獲って飛ぶ鳥落とす勢い。
1月3日恒例のNHKでも、同じ「早口言葉が邪魔をする」を掛けていた。賞レースでない高座を聴いたら、非常にいいデキだった。
三実さんが夜席のトップバッター。
2年ぶりに、この伝統ある会に呼んでいただきましたと。
2年前のこの会で、私も三実さんのことを知ったのだ。このとき出した「あの人どこ行くの?」は素晴らしいデキであり、展開を大幅に替えてその年のNHK新人落語大賞に出した。優勝はしなかったが、私はトップ評価した。
当時は繁昌亭大賞新人賞で選ばれた。それ以来で呼んでいただいたのはなぜか。自分で言うのもなんですが。
阪神の監督に就任したからやと思います。客爆笑。確かに藤川カントクによく似ている。
作ってきた落語が、「必要以上にツケ使いまくり落語」というタイトル。
ふざけてるのか! ふざけてるんでしょうな。
歌舞伎のツケの音が好きなのだが、古典の芝居噺などできないので自分で作ったと。
なんと、作ってきたのはストーリーにまったく意味のない噺。
ストーリーは一応ある。結婚間際の男女が喧嘩になったが仲直りして、食事をして一緒に帰って床に入る、というだけ。
このストーリー自体には、なんのひねりもなく、関西人同士の会話ながらクスグリもほとんどない(終盤にほんの少々効果的に入る)。むしろ、あえてひねりを排除している。
なのに爆笑であった。
すべてのシーンに、セリフにかぶせてツケが入るのである。これがこの噺に生じる笑いのほぼすべて。
食事に合わせ、テレビに合わせ、ツケがバタバタと。
登場人物ふたりは、会話の外で叩かれているツケについては一切触れない。楽しそうにご飯食べてるだけ。
これはすごいわ。
昔ドリフで、加藤茶と志村けんのコントに、仕事を家庭に持ち込んでしまう歌舞伎役者というものがあった。
それがいちばん近いが、でも三実さんが知っているかどうか。
ギャグゼロでここまでウケる落語というものも、エポックだ。
もっとも、どう面白いのかは、実際に聴いてもらわないとわかりようがない。
所作と一緒に味わうと、もっと楽しいのだろう。
ツケ打ちは笑福亭呂翔さん。事前に1時間練習したそうな。
だから残念なことに、どこかでいきなり掛ける、ということは到底不可能な演目。
それから南天師(大阪でいう中トリ)の壺算。
面白くて、繰り返し聴いたのだが、番組の再生時間は3時間が限度。南天師で時間を食い尽くしてしまった。
南天師の師匠、南光師がトリなのに、ここまで到達しない可能性がある。
2年前にも南天師は上方落語をきく会に出ていた。その際も、スタンダード演目のちりとてちん。
これもまた、私に大きな影響をもたらした一席だった。
師のちりとてちんをひとつのきっかけに、私は「ラジオ焼き」という用語を考案した。別に世間で使ってくれてるわけではないが。
ラジオ焼きとは、古典落語のガワだけ使って、中身を自由に創作する概念である。
南天師は相変わらず語り口がすばらしい。
抑揚付けてスピーディに語り、呼吸一つで笑わせる。しかしながらまったく下卑ていないという。
古典落語の創作力の高さと同様、喋りのリズムもオリジナリティ高いものを作り上げる。
東京の落語ファンにもピタッとハマりそうなタイプに思えてならない。
柳亭小痴楽師が最も近いかな。
そんなわけで南天師、江戸で結構ウケると思うのだが。来てくだされば私も行くし。
今回の壺算も、東西で繰り返し掛けられて擦り切れていかねない演目。
そうだとしても、抜けたほうの男の軽さがとてもいいのだけど。
それに加え、クスグリに豊富に新機軸があった。
道具屋に値引きを交渉する際、なだめたりすかしたりはギャグになる。
南天師は、一緒に行くちょっと抜けた男の嫁はんに目をつけた。
この嫁はんの影響力たるやものすごく、嫁はんが褒めたお店は大躍進。けなしたお店は長期休業あるいは潰れてしまう。
嫁はんは最近、ゆに屋黒兵衛商店を褒めたところ大躍進で、梅田にも大型店ができたらしい。
いっぽう、けなしたほうが、伊勢のあんころ餅屋に船場の料亭。
そして、番頭がそろばん弾いて混乱の極みにある際にやってくる見知らぬ客。直接のセリフはない。
カンテキ(七輪)を買い求めているのだ。大量に買うから安うしてくれと。
カンテキというのが面白い。幕間のインタビューで答えていたが、師匠がなにかでやっていたのをカンテキに替えたらしい。
番頭を混乱させる際、買い物上手の男はこんなことを言っている。
「忘れたらあかんで。この水壺は3円で売ってもらったもんやが、これを返したらお宅は3円50銭で売れるんや」
「ほな、こちらから50銭お返しせなあかんのですか」
このやり取りはまったく聴いたことがない。よく見つけたなと思った。
笑い一杯だがこんなくだりもあり、感服した。
「天秤棒、おうこを持ってきたんや」
上方落語には普通に出てくるはずの「おうこ(朸)」は現代人にはわかりにくい。でもまるっきり天秤棒では雰囲気が出ない。
これをどう伝えるかは、鶴光師も米團治師も語っていた。
南天師のものも一つの答えだ。
明日も、制限時間の中聴ける範囲で、上方落語をきく会を取り上げようと思います。