アニメ「昭和元禄落語心中」の落語(助六再び編)/第五話

柳家小ゑん師匠のツイッターをいつも拝見しているが、「昭和元禄落語心中」について、「時そばの勘定の仕草は違う。手を下に向けたら『応挙の幽霊』みたい」「家族を楽屋に入れるなんてありえない」と書いていらした。
ただ、全体的には好意的なようだ。

全然関係ないけど、たまたま視た再放送のサスペンスの話。
「昭和元禄落語心中」の監修者、林家しん平師匠が噺家の役で出ていて、毒殺されていました。殺される前に高座も務めていた。
この師匠、なにをやっても器用すぎ、各方面への才能があり過ぎるのが欠点だと、三遊亭円丈師にも書かれている。
映画等、各方面への才能があり過ぎ、落語にこだわらない人らしい。

さて、第五話。
親子会のポスターを寄席に貼ってもらう助六。協会の名前、「大江戸落語協会」というのだ。はじめて知った。

歌舞伎座での親子会当日。歌舞伎座で落語ができるというのは大変な名誉であろう。
私、たまに歌舞伎は幕見で観るのだが、落語聴いたことはない。
つい一昨日も、所用のついでに中村屋さんの初日をひと幕見てきた。30分の芝居で1,000円。歌舞伎も幕見なら意外と安いですよ。千円の価値は十二分にありました。
ただ、あの遠い席から落語聴きたいとは別に思わない。

萬月兄さんが、「前から観させてもらいます」と八雲師匠に断っている。細かいところだが重要だ。
萬月兄さん、まだプロの噺家の扱いらしい。プロであれば、袖から聴くのが約束で、客席から観たいときは必ず断らなければならない。
そういえば、このあたりのこと、柳家喬太郎師がよくマクラで話している。

「自分のことを空っぽにして佐平次になりたい」と八雲師匠に語る助六。
「佐平次で我を張れ」と教える八雲師匠は頭を抱えているが、本当に空っぽになれるならひとつの芸の境地、大したものだと思う。

「錦の袈裟」を掛ける助六。
八雲師匠、「やけに笑わせやがる。やりにくくて仕方ねえや」。
寄席とホール落語はいささか違うけれど、全体を聴いてもらって一日の番組という点においては一緒だ。出番ごとには役割というものがあるのである。
笑わせ過ぎるとあとがやりにくいというのは師匠の本音だろう。
ただ、内心でやりにくいかどうかは別にして、相当上手い噺家さんだと、空気を変えるのが巧みである。八雲師匠だったら全然問題ない。

よく考えたら、「末広亭」は「雨竹亭」なのに、「歌舞伎座」というのはフィクションの中でもそのまま使われているのだな。
「歌舞伎座」だって固有名詞だと思うのだが。そのためか、ポスターには「かぶき座」と書いてある。

親子会のプログラムをよく読むと面白い。こっちには「歌舞伎座親子会」と書いてある。

前座 開口一番
宮前坂一色(二つ目) 初天神
有楽亭助六 錦の袈裟
有楽亭八雲 反魂香
(仲入り)
御茶ノ水文汰社中 太神楽
有楽亭助六 居残り
有楽亭八雲 死神

適当な名前の芸人さんはご愛嬌。
この前に、「口上」として助六が冒頭の挨拶をしている。
「居残り」という演題が気になる。私の知る限り、この噺は例外なく「居残り佐平次」である。
「掛取り」という噺は、正式には「掛取り万歳」だが、これは「三河万歳」まで行かずにサゲるから縮めて「掛取り」というのである。これとは違う。
「佐平次」を取ってしまうのはよくわからぬ。

反魂香

さて、八雲師匠の高座。「反魂香」とはまた、大変に珍しい噺である。
みよ吉を呼び出すための仕掛けとして、無理にセレクトされた噺なんだろう。
まったく聴かれない噺だが、私は中学生くらいにラジオで聴いた覚えがある。たぶん、古今亭圓菊師匠だったのだろう。
一回だけ掛かったその放送を覚えているくらいだから、よほど印象が強かったのだと思う。
確かに、冥界から霊を呼び出すという、他に類のないインパクトを持つ噺である。他の幽霊もの、「三年目」「お菊の皿」「へっつい幽霊」などともかなり味わいが違う。
紺屋高尾が下敷きになっていて、またかみさんを亡くした八っつぁんの純愛物語が根底にある。結構盛りだくさんの内容を持つ、厚みのある噺。
しかしながら決して人情噺には流されず、あくまでも滑稽噺の骨格を失わない。なにせ、「反魂香」と、「越中富山の反魂丹」とを間違えるのだから。
なんでこの噺、廃れているのだろう? 圓菊師の弟子はやらないのだろうか。志ん弥師や菊丸師、あるいは菊之丞師。

You Tubeで聴ける「反魂香」では、圓菊のものは鳴り物は入らない。志ん朝のものが、八雲師匠と同じく鳴り物入りである。
歌舞伎座だから、張り切って鳴り物入りにしたのだと思う。

幕が降りたあと、倒れる師匠。噺のほうは、しっかりオチずに終わってしまった。
先代助六が待ち受けるのは、大量のローソクがともる「死神」の舞台だ。

最後の高座が終わってから亡くなった人で有名なのが、三遊亭圓生(六代目)。同じ日にパンダのカンカンが死んだため、新聞の紙面を取られたというネタはいまだにマクラに掛けられている。
四代目柳家小さんも、高座が済んで楽屋でコロッと亡くなった。

第六話に続く

作成者: でっち定吉

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