KITTEグランシェ落語会の瀧川鯉丸(上・真田小僧)

無料の落語をこよなく愛する丁稚定吉です。
カネ取る会でも運営のひどいのがあるいっぽう、無料でもいいのがあります。

前から存在は知っていた、月イチの会に初めて行ってみる。
丸の内のKITTE、その地下街であるグランシェでやる落語会。芸協メンバーが交代で出演している。
東京駅の目の前で、無料の会とは嬉しいではないですか。
夕方5時半から1時間、ひとりで務める会。
今回は瀧川鯉丸さん。
しょっちゅう二ツ目さんの落語を聴きにいっている私ではあるが、この人のことは名前以外なにも知らない。
二ツ目も大変多いので、知らない人は知らないのだ。この鯉丸さんのように、神田連雀亭に出ない人ならなおさら。
知らない人なので期待しようもないのだが、行ってみる。
鯉昇一門の若手、それほど聴いているわけでもないのだがいいイメージを持っている。
丸の内の地下出口から直結しているKITTEの入口すぐ、左手が会場。
「Tokyo City i CAFE」という情報発信コーナーおよびカフェバー(PRONTO)を区切って会場にしているらしい。
座りごこちのいい椅子だ。
30分前に行ったらすんなり席が取れた。開演前にはまあまあ埋まる。

真田小僧(通し)
明烏

関係者のなんの挨拶もなく、鯉丸さんが袖から出てきて落語会のスタート。
まあ、要りませんよ関係者の挨拶なんて。
お客さんは毎月来ているのだろうか。落語は聴き慣れている感じ。
さすがは丸の内で、マナーも非常にいい。浅草演芸ホールの客よりずっといい。
鯉丸さん、この会ももう3年やっていますと。第1回がこの人だったそうな。
その際は手探りだったので、仕切りも設けず、外のガヤガヤが全部聴こえてきてなんともいえない雰囲気でしたとのこと。
落語会にもいろいろある。子供の頃から通っていた、地元のスーパーで開かれた会の話。
「当日3千円お買い上げの方に限り先着50名」という、やたら強気な設定の会。大丈夫かと思ったら、40人ぐらい埋まっている。
安心したが、マクラの反応で、みなスーパーの関係者であることを知り心が折れる鯉丸さん。
その日の第2部もあったが、もうスーパーのレシートなんかどうでもよく、タダで入れていたという。

マクラで早くも客をつかむ。
とにかく明るい雰囲気を漂わせる人である。そして、この後本編に入ってさらに活きる個性がマクラの段階で現れているが、話をやたら弾ませたリはしない。
明るいのに落ち着いた話術は、他の噺家にはないムード。
鯉丸さん、デブキャラというほど太ってもいないが、デブキャラっぽい。
デブキャラの噺家、二ツ目さんでも多数いる。三遊亭楽大、林家扇兵衛、春風亭一蔵、柳家やなぎなど。
そういう人たちは、渾身の力でもって話を弾ませる。それはそれで楽しい。
鯉丸さんの方法論は違う。落ち着いているが、だからといって、客を鎮静化させようともしない。
とにかく、明るいムードを維持することだけ心掛ける。
このような芸風を知らない。
メリットとしては、スベリ知らずである。本人ケガをせず、客は決して退屈せずという。
なかなかこんな方法論は採れないだろう。
得難い個性に、マクラでもって、すでに来てよかったなと幸せな気持ち。

学校寄席の話を振って、そこから子供の噺へ。真田小僧。
やはり、とにかく明るい金坊である。
真田小僧の金坊は、めちゃくちゃ企んでいるわけだが、明るいのでちっともいやらしくない。
金坊の裏の姿は、すべておとっつぁんにより描写されるのだ。
そして、必要以上のギャグは入れない。噺の演出も非常にスタンダード。だが、そこに「明るさ」というトッピングが終始乗っているのが個性。

(※ 鯉丸さんについてなにも「知らない」は言い過ぎで、東神奈川で聴いたことがあったのに忘れていました。もっとも覚えていたら行かなかったでしょう。満足したので結果オーライです)。

続きます。

作成者: でっち定吉

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