アニメ「昭和元禄落語心中」の落語(助六再び編)/最終回第十二話

いよいよ最終回である。

時代は一気に飛んで、隅田川越しにスカイツリーがそびえる現代。
焼けた「雨竹亭」が復活する。その間16年、東京の落語界は寄席なしで過ごしていたらしい。ちょっと考えられない状況。
小夏が女流噺家の第一号だというのも、現実世界とは大きく異なる。
東西に噺家は150人とのこと。現実世界では800人を数える。
そして助六は九代目八雲を襲名する。

信之介は10人抜きで二ツ目に抜擢昇進したらしい。ということは、前座の頃から光り輝いていたということだ。寄席のないジプシー前座だったのはかわいそう。
二ツ目への抜擢というのは、現代では考えにくい。
基本的に落語界には、前座修業だけはちゃんとやらせておけという発想が多分ある。抜擢なら、真打昇進時にやれば済むこと。

先代と一緒に三途の川を渡った松田さんはお亡くなりではなかった。
登場人物すべてとかかわっているという、「スターウォーズ」のR2-D2みたいな人だ。

「菊比古」(五代目)を継いでいる信之介が、披露目のネタをさらっている。
「初天神」、物語の後半から急によく取り上げられるようになった。
菊比古が演じているのは、九代目ではなく、八代目八雲の型だそうだが。
どうやら実の父は八代目らしい。優秀なDNAを残したい小夏の執念。

八雲襲名についての、本人の考えが吐露される。

  • 先代とは芸風が違うから反対もある
  • 師匠からは好きにしろと言われているだけ
  • 大名跡はみんな継ぎたがらない
  • 名跡が復活しないとお客はさみしい
  • (菊比古に)名前で迷ったらお客様のことを考えなさい

いいまとめである。こういうリサーチが行き届いているので、多少のアラがあってもこの物語が好きなのである。
「大名跡はみんな継ぎたがらない」という例は、たとえば「金原亭馬生」。弟子が譲り合って、結局今の馬生師に落ち着いたのだと。世之介師匠だけは継ぎたがったそうだが、「それだけは」と他の弟子が反対したそうで。
いっぽうで、誰が継いでもいいものなのかというと、落語芸術協会に顕著であるが、大きな名前の小さな噺家がやたら揃っているという批判も根強い。
落語協会の方でも、「文楽」「正蔵」「小さん」と、外野のかまびすしい名跡も多い。

劇中では、「有楽亭八雲」の名跡に固執したエピソードもあった。
七代目八雲が、どうしても名前が欲しく、実力ではなく血のつながりを利用したという。

「八雲襲名披露で本人が口上を述べている」のかと思って一瞬驚いたが、襲名披露ではなく雨竹亭再建の披露目であった。
襲名披露はどうするのだろう。襲名披露であれば、本人は口を利かない。
ちょっと気になるのは、披露目のときは、本来下手の人が司会である。口を開くのはその人からだ。
そういえば、助六にいた弟子の小太郎はどうなったのだろう。寄席が焼けて落語辞めたのかな。原作漫画に描いてあるのだろうか。
原作は、第一シーズンの前に5巻まで読んだ。アニメ終了記念に全巻読もうと思ってます。ブログのネタにもなるし。

菊比古の「初天神」。
名前はきっと、前座から菊比古なんだろう。
ちなみに、八代目の型の「初天神」ではなく、九代目の「出来心」をやれと、妹の小雪が勧めていた。
第一シーズンのはじめで前座だった与太郎の掛けていた「出来心」、すっかり売り物になったらしい。
菊比古も、九代目没後は十代目八雲になっていくのでしょう。

助六改め九代目八雲は、披露目のトリで先代譲りの「死神」。披露目の席なのに縁起でもない噺だが、と一応断っている。
披露目の、特に初日はめでたい噺を選ぶことが多い。泥棒の噺も、お客の懐をとりこんでめでたいとされる。
一言断っておかないと、そのシーンがアラになってしまうので大事なのである。
マクラで九代目、先代の話を語っている。

  • どこへ出入りしても八雲の弟子ということでかわいがってもらえる。
  • あたしも師匠の話をするのが好き

これまた、端的ですばらしいまとめ。
師弟関係とはいいものですね。
師匠と弟子とは疑似親子なので、生きている間は必ずしも関係円満だとは限らない。
九代目のように、師匠に100%心酔していた人のほうがむしろ珍しいだろう。自ら進んで一緒に住んで。
それでも、亡くなると師匠をしのぶ人が多いようだ。

「死神」、いよいよサゲという場面で、先代八雲が現れて、消える。
顔を起こした八雲師匠、「なんだ、夢か」。
サゲの競作が盛んな「死神」だが、なんとびっくりの夢オチ。
ちなみに、柳家さん喬師は、本当にこの夢オチを「死神」でやったらしい。学校寄席に出向いたとき、サゲになって、「小学生の前で死んで終わるとあと味が悪い」と思って夢に替えてしまったそうである。

エンドロールにかぶせて、劇中落語のダイジェスト。
「つるつる」先代八雲
「浮世床」当代八雲(助六)
「二番煎じ」先代助六
「明烏」先代八雲
「居残り佐平次」当代八雲(助六)

いい余韻を残したまま物語は終了。
四代に渡る一大叙事詩の完結である。落語サーガ。

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作成者: でっち定吉

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