吉緑さんは、過去に聴いた2席がなんだかなという感じだったのだが、それでもマクラは楽しかったので、結構期待大。
そんな噺家はなかなかいない。一度の失敗に当たってしまい、避けることだってよくあるのに。
池袋演芸場の下席には、二ツ目勉強会があるというマクラ。
最後列の補助席に、理事の噺家が並んで聴いているという、大変怖い会。カミシモを振ったときに、隅にいる扇遊師と目が合ったりなんかして。
この会のお客さんは、ビッグネームが後ろにいても、ほとんど気にしないで落語に集中している通だ。
会が終わった後、打ち上げの前に理事たちから講評がある。
あるとき、吉緑さんは「千早ふる」を掛けたところ、三遊亭吉窓師から褒められた。
百人一首と百姓一揆を間違えるクスグリなど、もらっていいかなんて言われてとてもいい気分。
吉窓師はとても優しい、人望のある人である。
だが、この後の古今亭志ん輔師が真逆の論評をする。
「吉窓さんはああいうけど、私に言わせれば全然ダメだ。吉緑さんは苦労するよ」。
それだけならいいけど、「なんだか談志と志らくと花緑を一緒にしたような芸だ」。
なんだそれ、吉緑さんの師匠を含めたその3人が嫌いなだけじゃないかと吉緑さん。
この後、同門の圭花さんの論評に入ると、優しい吉窓師が、今度はうーんと首を捻っている。
ところが志ん輔師が、「いやあ、よかったよ」。
なんてことはない、吉窓師と志ん輔師が仲悪いだけじゃないのかと。
今日はこの後池袋で二ツ目勉強会ですと吉緑さん。よかったらどうぞ。
吉緑さん、切れ味鋭いマクラをまたしてもありがとう。
落語協会の重鎮を斬ってみせるとはすごい。そのマクラの内容を、私がここでさらしていることの是非はさておき。
以前聴いた、先輩を斬りまくる桂宮治さんのマクラには不快感を禁じ得なかったのに、吉緑さんのネタを聴いた私、大変スッキリしている。
宮治さんと違い、自分の主観を極めて上手に引っ込めているからだ。
吉緑さん、あくまでもあった事実を描く。
それにこの人のほうが性格がいい。師匠が貶められて怒るのは自然な感情。
以下の文責はあくまでも私丁稚定吉にあり、吉緑さんの意思は入っていません。念のため。
志ん輔師、二ツ目からの評判はとても悪そうだ。
この人、神田連雀亭の運営から手を引いたが、その後連雀亭はしっかりまわっている。
昔子供に買ってやった、「のりもの探検隊」のDVDではにこやかなのだが。
古今亭駒治師も、師匠が亡くなって移籍する際、志ん橋師のところに行ってよかったね。
噺家との付き合いのないただのファンである私から見ても、かなり性格悪そうな師匠だものな。
優秀な弟子を立て続けに送り出している花緑師を、よく悪く言えるものだとちょっと驚く。
惣領弟子をイビッて廃業に追い込み、二人目の弟子も引き続きイビり続けているような人がね。
ほぼ想像ですみません。
だが落語界を観察していると「無駄に厳しい師匠は育成能力が低い」のが真理。これについては確信している。
師匠の厳しかった思い出を語る売れっ子など、菊之丞師ぐらいしか知らない。
その菊之丞師が志ん生になるだろうとささやかれる中、志ん輔師の志ん朝襲名はどこに消えたのでしょうか。
まわりが協力してくれないと襲名もできないからな。
脱線した。
三ぼうのマクラから入った吉緑さんの本編、鈴ヶ森はかなりよかった。
鈴ヶ森は二ツ目さんが競って掛ける噺。タケノコをケツの穴に刺してしまうのは、喜多八師から来ているらしいが。
競って掛けるわりには、展開を大きく工夫している人は知らない。
多少の差はあっても、どこかで聴いた展開とクスグリの噺だ。吉緑さんもこの点はそう。
だが、吉緑さん、このみんながやる噺を実に楽しそうに語っている。そのおかげで登場人物が生き生きしていて楽しい。
新米間抜け泥棒だけでなく、ツッコミ一辺倒の親分もとても楽しい。
ご本人の工夫は、「知らずに通ったか」を「しじみを獲ったか」と間違ったところ。「シラミ」が多いですね。
あと、身ぐるみ脱いで置いていけ以降が言えずに、ブルルと唇を鳴らす。
ひげを顔の右半分に描いてしまうというのは他の人でも聴いたことがあるが、「そのまま行け。面白れえから」と親分。
これは吉緑さんの問題じゃないけど、今さらながら、鈴ヶ森の穴にひとつ気が付いた。
鈴ヶ森に追い剥ぎに行くって決めているのに、なんで「しゅうと」(犬)に食わせるためのむすびを持っていくんだろ。
かつてはコソ泥のシーンがあったのが消滅して、クスグリだけ残ってしまったんでしょうかね。
理屈からいえばこのくだり、カットしてもと思う。でもせっかくのクスグリ、他に入れる噺がないな。
朝太時代はのびのびして、将来必ずや、落語界をしょって立つ、と思ってたのに師匠のピリピリした神経質なところだけ継いでしまったのでしょうか。
貞吉さま、コメントありがとうございます。
別に志ん輔師の落語自体をどうこう言う気はありません。
ただ、高座と関係ないところでイヤな人だなあと思うと、その独特の発声まで気に障らなく感じたりはします。
芸は人なり。