順序が逆になりますが、黒門亭の二日前、平日昼間に「神田連雀亭」に行ってみた。
仕事絡みで最近よく外出するのだけど、この日は完全に仕事をサボっての落語。
仕事をちょっと増やしたので、落語の回数はやや減るかも。
かみさんに「釜の蓋が開かないよ」って言われないよう働きます。
二ツ目だけが出られる「神田連雀亭」。一度行ってみたかった。
近くには「らくごカフェ」もある。こちらはまだ行っていない。
11時30分から始まる「ワンコイン寄席」。狭い会場が大入りでした。
二ツ目さんが3人出て500円。仕事を抜け出してきたサラリーマンの姿も見られる。時間は1時間。
主任が柳亭こみちさん。今秋、「桂三木男」「古今亭志ん八」とともに真打昇進予定である。
2階に上がってみたら、受付にいきなりこみちさんが立っていた。小さい会場だから不思議はないけどちょっと驚く。こみちさんに500円玉を渡して入場。
馬久 / 真田小僧(通し)
楽八 / 辰巳の辻占
こみち / だくだく
馬久さんはちょっと面白い感じ。「フラ」というのとは違うけど、妙な味が漂っている。
さて、こみちさん、随分昔に地域寄席の前座に来ていて、「やかん」を掛けていたのを覚えている。12年くらい前か。
その会は「女流特集」だった。トリが歌る多師匠で、廃業した木久扇師の女の弟子が二ツ目で出ていた。
こみちさんの「やかん」、前座にしては随分上手で、その高座をよく覚えている。
講談のシーンに入って、トントンと進んでいたが一か所間違えた。でも、「間違えましたけど続けます」と軽くウケを取って先に進んでいた。心臓も強い。
それ以来だ。一度TVの高座を拝見したことはある。
二ツ目さん、チャンスがないとなかなか出逢わないのである。
ご主人は、協会が違うが漫才「宮田陽・昇」のツッコミ、昇師匠。風格があって間が絶妙の、すばらしい漫才師。
夫婦そろって肝が据わっている。
真打昇進が決まっているというマクラから。案はあったが、昇進後も同じ名前とのこと。
女性らしくていい名前ではないですか。
こみちさん、楽しいマクラからの見事な「だくだく」でした。
以前も当ブログで「女性の噺家」について書いた。
落語の世界は男の理屈でできあがっているので、女性が演じるのは無理がある、などという。これは偏見だと思っている。
「落語はダメだが講談なら女性もできる」なんてことをまことしやかに言う人もいるのだが、たぶんこれは原因と結果が逆である。
ただ、男の理屈の落語を演じようと、女性の噺家が苦労してきたことは事実だ。
桂あやめ師匠などは、等身大の女性を描いた新作落語でこの問題を解決した。同じ道を進み、今一つパッとしない人もいるけど。
ここに、くだらない議論を簡単に論破する実例がある。こみちさんは、普通に古典落語を演じて上手い。
「だくだく」の登場人物は男3人。だが、なんの違和感もない。結構すごいことである。
落語を違和感なく、自然に聴かせる方法はきっと簡単なのだ。こみちさんもそうしているのだと思うのだが、登場人物の肚になってしゃべればいいだけ。
「たぬきをやるならたぬきの了見になれ」という柳家の教えに従って。
こみちさんは、八っつぁんの肚に、先生の、泥棒の肚になってしゃべっている。だから違和感なく聴こえてくる。
男の噺家が女を演じててもおかしくないのと同様、男を演じるこみちさん、まったくおかしくない。八っつぁんはちゃんとガラッパチだし。
しかし実際に、これができているというのはすばらしい。基礎がしっかりしているからこそである。
春風亭ぴっかりさんなど、本人のかわいらしさをうまく噺に持ち込んでいるけれど、こみちさんはそういうやり方でもない。
まったくブレない正統派の落語。いろいろ誘惑もあるだろうが、自分の信じた道を突き進む。
こういうスタイルなら、男の噺家さんがそうであるように、年齢を重ねるごとにさらによくなっていくはず。
かわいいお婆さんになったこみちさんが今から楽しみです。無理に歳取らすことはないが。
その前に、秋の真打昇進披露は行かなきゃなと思いました。
こみちさんのような上手い女流に勝手に期待する噺がある。
来月の黒門亭でネタ出ししている「三枚起請」もいいけども、同じく廓噺「徳ちゃん」に出てくる、化け物みたいな花魁やってもらえないだろうか。
女性ならではの味付けというものがある気がするのだ。