アニメ「昭和元禄落語心中」の落語/第一話

もう終わってしまったアニメの番組内で登場した落語について解説、というか好きなことを書いていくことにします。

今日は第一話。

死神

与太郎が、有楽亭八雲師匠の刑務所慰問で聴いた噺。弟子入りのきっかけである。
刑務所慰問といえば桂才賀師が有名だが、ノーギャラだそうで。
八雲師、さりげなくすごい人ですね。
弟子入りした与太郎のために、八雲師はわざわざ高座でも掛けてくれた。

他愛のない話が多い落語の中にあって、「死神」は屈指のアイディアストーリーである。
「死神が病人の足元にいれば助かる」
「この知識だけ活かし、医者になっていったん大成功する」
「最初のうちは死神は枕元にいることが多かったが、うまくいかなくなってくると足元にいることが多くなる」
「死神が病人の枕元にいれば助からないはずなのに、強引に布団を回して助ける」
「命の長さを現すろうそくを自分で処理させられる」
という、盛りだくさんのアイディアが詰め込まれた噺。
伝説の噺家「三遊亭圓朝」の作った噺で、新作落語ともいえる。
最後、主人公は自分のろうそくの火を移せないと死んでしまうという羽目に陥る。
基本的には死んでしまうのだが、このサゲに工夫をこらす噺家さんが多い。失敗してバタっと倒れたり。
サゲは別になんでもいい、なんだったら「冗談言っちゃいけねえ」で終わったっていい、というのがほとんどの噺だが、この点死神のサゲは異彩を放っている。

死神を追い払う呪文にもいろいろある。
代表的なのは
「あじゃらかもくれんきゅうらいす。てけれっつのぱあ」。
六代目三遊亭圓生には、「あじゃらかもくれんハイジャック~」とやっている速記と録音が残っている。この人の「死神」は死神の不気味さもあり大変有名。
柳家さん喬師匠などは、「~おっぺけれっつのぱあ」とやっている。
その他いろいろ、ここでギャグを入れ遊んでしまう噺家さんが多い。

圓生の孫弟子である三遊亭白鳥師匠は、名作「死神」を換骨奪胎した新作「死神」を作っている。
ろうそくをつけるシーンで、関係ないろうそくまで全部消して、人類を滅亡させてしまうムチャクチャな噺だ。しかもそのあとまだ続く。
この新作「死神」における「恐ろしい呪文」は「ミイちゃん、ケイちゃん、叶姉妹、おっぱいムチムチ見ちゃいやーん」。
寿命が3年縮むほど恐ろしいのだそうだ。恥ずかしさのあまりに。

出来心

与太郎の本名が明らかになるが「強次」。故・古今亭志ん朝師匠の本名と同じだ。与太郎なのにね。

与太郎が高座に上がり、元兄貴分の前で演じる噺。前座のくせに、テンポよくやたらとうまい。
泥棒噺のひとつ。
デキの悪い新入り泥棒が親分に、「真心に立ち返って悪事に励みます」という場面から始まる。
この場面からは、「鈴ヶ森」に行ってもいい。
寄席では時間の関係で、泥棒が盗みに入って勝手に飲み食いしていた家で見つかって逃げ出し、下駄を忘れてきた場面で切ることが多い。
与太郎はその先までやったが、先までやると「花色木綿」という話になる。
原作では、下駄で切らないで先までやってしまったことについて、八雲師匠があとの師匠方に謝っておくことにして、そのまま続けさせることになっている。
ただ、与太郎は前座のためマクラを振っていないので、20分あれば最後までできるかもしれない。

泥棒がまだ隠れているとも知らず、もともとものを持っていない八っつぁんが、店賃逃れのために大家に、いい品ばかりありとあらゆるものを盗まれたと嘘をつく。
具体的にどんなものを盗まれたかを追及され、なんでもかんでも「裏が花色木綿」と言い張る。
泥棒さんが辛抱たまらず、飛び出してきて八っつぁんの嘘を暴いてしまう。
嘘は暴けたが、泥棒に入ったことをとがめられる。親分に教わったとおり「出来心で」といいわけ。
そして嘘をついたことを追及された八っつぁんも、「ほんの出来心で」。

「花色木綿」を聴く機会は意外と少ない。
隠れていた泥棒が出てくるのは「締め込み」「碁泥」などと同種で、それならドラマティックな「締め込み」のほうが得だからかもしれない。うんでば。

初天神

与太郎が、八雲師匠の独占会で喋っている。
八雲師匠によれば、稽古が全然足りておらず、「フラ」だけで高座に上がっているそうだ。「フラ」のある前座、それだけですごいけど。
八雲師の型でなく、レコードで聞き覚えた助六の丸パクリ。師匠としては面白くない。与太郎、しくじる。

特に、正月によくかかる噺だが、寄席では一年中やっている。
個人的に、いちばん面白いのは春風亭一之輔師匠の「初天神」です。この人は泥棒もうまいし子供もうまい。なんでもうまい。

鰍沢

人情噺の名作。サゲが地口落ち(ダジャレ)なのだけ難点。
独演会での八雲師匠の熱演も、与太郎が居眠りしいびきが客席まで聞こえ、悪落ちしてしまう。
「変な寝息まで聞こえてきやがった」と仕方なくごまかす八雲師匠。
与太郎が助六ネタを掛けたことですでに機嫌の悪かった八雲師、このしくじりで一度、与太郎を破門する。

雪の山中でひと晩泊めてもらう旅人が、カネのために殺されかける怖い怖い噺である。
古谷三敏「寄席芸人伝」というマンガがある。その第1巻で、柳亭左楽が夏の暑い日に「鰍沢」を掛けたところ、客の扇子を持つ手がピタっと止まり、襟元を合わせたなどという話が出ている。
柳亭左楽は実在の名跡だが、マンガ自体はフィクション。ただ、このエピソード自体は四代目橘家圓喬という名人にあった話だそうだ。
古今亭志ん生師匠が圓喬を敬愛し、この人の弟子だと生涯言っていたそうだ。本当は違うらしい。
八雲師匠も、圓喬の域に近づいているのではないか。
とにかく、師匠が高座を務めているのに弟子が寝てはいけません。

第二話へ続く

作成者: でっち定吉

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