二番手は期待の柳家勧之助師。真打になってからは初めてだが、二ツ目の花ん謝時代に中村仲蔵で圧倒されたことがある。
同期昇進5人の中で、最初に寄席のトリを取った人。池袋で、行けなかったが結構入ったらしい。
勧之助師、この花緑弟子の会の客をよくわきまえていて、楽屋ネタをたっぷり。
昨日まで、新潟に師匠と行っていた。小さん存命中から続く大掛かりな、気合の入った会らしい。
昨年のことだと思うが、その会で勧之助師も真打昇進披露をやってもらった。
並んだのが、司会の緑太、兄弟子のおさん、そして師匠花緑。
台所おさん師の口上は、なにを喋っているのかわからない。ここで本人の爆笑モノマネが入る。
披露目で真打は喋れないので、わけのわからない口上をじっと聴いているしかない。
「入門したときは静かな男で、喋ったところを見たことがない」。それはオメーだろと勧之助師。
その他、おさん師は嘘ばっかり喋る。客もおさん師のことは知っているので大ウケ。
この、作り込んでおらず、天然で「キチガイ」(勧之助談)の兄弟子を徹底的にネタにする。
だけど、その個性が羨ましいのだそうだ。アタシなんてこういうフラはないですからと勧之助師。品はありますけどね。
一門の10人いる弟子、次々と名前が挙がる。この一門のファンの客なら嬉しいに違いない。私も嬉しい。
花緑師の掛ける噺も、弟子が多いので分散して引き継がれている。アタシなんかは、刀屋はやりたいと思わない。
でも、掛けたがる弟子がいるので、全員揃えるとなんとなく花緑の噺がわかるんだと。
圭花みたいな、師匠のウケない噺ばかり好んで引き継ぐわけのわからないやつもいる。高田馬場とか樟脳玉。どんな需要があるんだと。
楽しいマクラの最後に、実はまだ掛ける噺決まってないんですだって。
こういう姿、お客に見せちゃいけないんです本当は。さん喬みたいに、気取ってやるようなことはできないだって。さん喬師にフォローは入れるが。
私も、さん喬師が弟子・喬太郎師のヒザ前で、なに掛けようか悩んで、前座にネタ帳持ってこさせていたのは観たことがある。
そのときは「徳ちゃん」だった。
噺を「寝床」に決めたようで、改めて義太夫のマクラに進む。
少々脱線して、歌が下手なのにも、笑ってもらえる人と、シャレにならずにみんな黙り込んでしまう人がいますと。
前者がおさん兄さんで、後者が花いちですだって。
花いちあいつ、歌が下手だって言ったらショックを受けて、ボイストレーニングに通ったんですからねと。
花いちさんからボイストレーニングのマクラは聴いたことがある。またしても嬉しくなってしまう。
実に楽しい一連のマクラだったのだが、本編、寝床がまたしても微妙。
いや、非常に面白くはあったのである。なにか明白に嫌な部分があって白けたなんてことでは全然ない。
なのに、一席終わってなにか釈然としないのだ。
それは勧之助師、この噺にずいぶんとオリジナルらしい工夫を加えているのだが、その工夫の意味がよくわからないということ。
こんな感じ。
- 「がんもどきの製造法」はなし
- カシラは成田に行ったのではなく、理由不明で欠席
- 奉公人たちは、一番番頭を筆頭にみな稚内に行っている
- お店にいるのは、長屋を廻って歩いた茂蔵と、小僧の定吉だけ
- 「(旦那の義太夫は)節があるから困る」と、旦那に直接茂蔵が伝えている
- おかみさんは防空壕に隠れた
いずれも工夫ではあるが、改変の必然性がわからなくて戸惑う。
茂蔵の話を聞く旦那が、気分が盛り上がっていて、いちいち義太夫の声を出しながら応答しているという部分などは、工夫としてよくわかる。
これは楽しくていい。最後、ひとりで義太夫を引き受ける羽目になった茂蔵に、これが移ったりなんかして。