池袋演芸場18 その4(三遊亭笑遊「やかん」)

続いて柳亭芝楽師。先の小痴楽師と名前がよく似ているが、まるで違う一門。
初めて聴くこの人が、収穫。
高座に座って合掌。風体がお坊さんなので。
芸協で聴くのは初めての、ふぐ鍋。この季節ならではの噺。
訪ねてくる男は幇間。全国温泉巡りから帰ってきたところらしい。
旦那がシゲと呼んでいるから、繁八というのだろう、きっと。
この幇間が非常にいい造型。女中のお清から猫まで褒めまくる。
ふぐ鍋は、乞食に毒見をさせるという、現代の人権感覚に抵触しかねない点だけ上手にクリアする必要がある。
だが芝楽師、足が地に着かない陽気な幇間を描いているため、この点まったく気にならない。
そして、鍋がことごとくおいしそう。ネギや白菜までみな旨そう。
さりげなく、マロニーちゃんまで入っていた。

次は、超ベテラン京太ゆめ子先生の代演で、「おせつときょうた」。若手漫才である。
不思議な代演だ。
新聞紙をデザインしたお揃いのスーツ。黒いシャツに色ネクタイでオシャレである。今年の漫才協会の、漫才新人大賞を獲っているのは知らなかったが。
名前からは男女コンビみたいだが、ノッポのおせつとチビのきょうたの凸凹男性漫才。
浅草で頑張ってますとのこと。芸術協会の色物一覧には名前がまだない。
大阪出身とのこと。大阪弁と東京弁と両方使う。
寿司屋の符丁について。
ムラサキ、ナミダなどの有名な符丁の他に、ウソ符丁をちょいちょい放り込んで客を騙す。
例の右手後方に座るキチガイ客がやはり勝手に絡んでくるが、3回目に本当の符丁を入れて見事に客をあしらう。お見事。
そして回転寿司のレーンを廻る寿司ネタになり切るという擬人化ネタ。
柳家小ゑん師の「ぐるんぐるん」(ぐつぐつの自己パロディ)みたいだ。
ぐるんぐるん聴いてるのか、それとも喬太郎師のコロッケそばあたりから、独自に思いついたのか。
いずれにしても、ネタのベースに新作落語の影響があるように思った。落語をリスペクトした漫才なら、悪いことじゃない。
寿司屋のレーンを廻るケーキ。紅茶と一緒に食べて欲しいのに、粉茶と一緒かと嘆く。
そこに隣の、なかなか食べてもらえないマグロが声を掛けてくる。しつこいマグロは可愛いケーキにセクハラしまくる。
楽しい漫才でした。これで大賞獲ったのだそうだ。

続いての三遊亭笑遊師、出囃子が鳴る中、袖で大声で談笑し、前座に「客席に聴こえてますよ」と指摘される。
それが全部客席に届く。緩くていい。
芸協の爆笑派笑遊師は、テレビの放送もそこそこ多い人だが、そのVTR、いつまでも取ってはおかない。
決して、嫌いなわけではないのだけど。
しかし、この師匠は生で聴いてこそだと、今回思い知る。VTRの再現の中に、笑遊師だけはいない。
いきなり、来年古希、膝が痛いと口を開く。
医者に言われた。落語と膝とどっちを取る。「※§*¶を取ります」とむにゃむにゃいう笑遊師。
聴こえませんと医者に言われ、「女を取ります」とかわけのわからないことを言う。
爆笑の雑談(というかボヤキ)から、やかんへ。
くじらはどうしてくじらっていうんですかと訊かれた先生、このくすぐりもう40年やってると。

この師匠のやかんも、同じスタイルのものをTVでも視たことがある。
だけど、それを知っていることの意味は薄い。
実に不思議な爆笑の一席でした。なにを見せられたのやらわけがわからないが。
強烈な世界に触れた楽しさだけが残る。

何年か前に笑遊師、桃太郎師のブログ(現在消えている)で、イニシャルで「S」として批判されていた。
自分のニンをわきまえず、急に大ネタを稽古し出していると。
だが、今日の様子を見ていると、なにか吹っ切れたということなのでしょうか?

続きます。

作成者: でっち定吉

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