黒門亭21(中・三遊亭金朝「藪入り」)

三遊亭たん丈さん(昇進後、丈助)は、高座に上がってまたしても自虐。
日本橋亭の会は、昇進前最後のものですが、実質的には初めての会みたいなもんですと。
他の同時昇進真打と違い、動員力もないです。だから来てください。
もっとも、万一動員したとして、これを見て席亭がトリを取らせてくれることはありませんだって。
まあ、それは確かにそうでしょうね。昇進後なにしているのか知れない真打なんて、特に落語協会にはたくさんいるのだから。
兄弟子の丈二師など私は天才だと思うが、そんな人だって寄席のトリは取れないのだ。

スベリウケ狙いのなまはげ小噺をいくつかやり、これで終わるのかと思ったら「落語苦手なんですけどやらないと叱られそうなので」と出来心を下駄まで。
なぜか羊羹でなくてバームクーヘンが出てきた。泥棒が盗み食いするが、口の中の水分がみんな吸い上げられる。
たん丈さんの落語、少しも面白くはない。でも、聴いて怒りが湧いてくるとか、そういうことは別にない。
聴き手の気持ちから攻撃性を取り除いてしまう、実に珍しい落語だ。
評価はともかく、どこかに価値がありそうに思うけども。寄席の浅い出番に放り込んでおいてもバチは当たらなそう。

仲入り前は昨年、師匠・小金馬を喪った三遊亭金朝師。
こうやって、黒紋付に袴、正月の正装で出てきたのは私だけですだって。
跳ねるどぶ板に気を付けろというあたり、丁寧な藪入り。どぶ板だけでなく、湯屋にシャボンなどいろいろ持っていけというくだりが大変丁寧。
息子の亀ちゃんは、熊さんが湯銭を持ってるか心配している。熊さん家のかつてと今の経済状況もよく見える。
熊さん、藪入りで帰ってくる亀ちゃんをどこに連れていこうかと思案する中で、「上野の鈴木さん、浅草の松倉さん、新宿の北村さんにも挨拶しないと」。
内輪ネタに詳しい黒門亭の客、爆笑。
池袋では名前が出なかったのだが、ちょっと進んでから「池袋は梅田さんだっけ。抜けるとしくじっちゃうからな」。
もっとも入れ事はこのぐらいで、端正な芸だ。
朝掃除をする熊さん、悪態はあまりつかない。偏屈ではあるけど。
この部分でウケを取ると、熊さんがイヤなやつになってしまう。刈り込むのは実に大事だ。

2箇所ほど言い間違いがあった。
熊さんが「目が開けられない」と言うべき場面で、2度目の「口が利けない」。
「しもやけ」と言うべき場面で「水虫」。
まあ、気になるほどではない。正月からいい噺が聴けた。
藪入りは先日、ここ黒門亭で、柳家一九師のいいものを聴いたばかり。
熊さんが、亀を殴るポイントがそれと一緒。亀が「人のがま口覗くなんて、貧乏はしたくねえや」と言ったからだ。
同じ出どころのようである。

仲入り後の橘家半蔵師は、ずいぶん以前に聴いた気がする。ここ黒門亭だったろうか。
なつかしの、師匠・圓蔵のムードを今に伝えるせわしい芸。
エバラ焼き肉のたれでウケる。

こんなお爺さん(65歳)が、反対俥をやるさま、初めて見た。著しく体力を使うため、若いうちしかできない噺。
武闘派の彦いち師ならともかく。
実際途中で、「この噺久しぶりだから、息が上がっちゃって」と俥屋に言わせていた。
しっとりした藪入りと、お目当て扇辰師の間に挟まる、短めで明るく楽しい一席。
俥屋は、「北へ行ってくれ」というリクエストに応じてぶっとばし、郡山まで行ってしまう。
北に行けと言われたから行ったまでで、急ぐ客の注文通りなのであった。
芸者を川に突き落とし、「早く芸者を上げるんだよ」「芸者揚げられるぐらいなら俥屋やってねえ」というのが、いにしえのサゲ。
これで客に手を叩かせておいて、さらに先を続ける。
あ、これも圓蔵師がよくやっていたワザだなと懐かしくなってしまった。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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