冒頭に戻ります。
前座の幸七さんは牛ほめ。
兄弟子・幸之進と勘違いしていて、師匠と一緒に芸協にやって来た人だと思っていた。違うのですな。
長年前座を務めているが、あえて腐らずに前座らしくハキハキ喋ることを心がけているのだ、偉いなと勝手に思い込んでしまった。
談幸師、知らなかったが芸協入りしてから4人も弟子を採っているのですね。立川流のときにはふたりだけ、しかもひとりは預かり弟子なのに。
その芸協に来てからの弟子のひとり幸七さんは、普通に修業をしているようだ。
勘違いはあったけど、基礎を大事にしている前座さんには非常に好感を持つ。
あんまり馬鹿じゃない造型の与太郎。カリカチュアには走らない。
続いて真打昇進を控えている吉幸さん。終演後、寄席の共通チケットを販売しますとのこと。
短期間といえ、前座からやり直した苦労人の吉幸さん、念願の真打だが、昇進するのもそれはそれで大変だ。平日の披露目がいつも満員になるわけじゃないし。
震災の慰問に、つまらない噺家が行くと二次災害になるマクラから、無筆の小噺へ。
そして本編は平林。
非常にあっさりした心地よい一品。こってりやる人のほうが多いイメージの噺だけど。歌っておけば盛り上がるし。
「いちはちじゅうのもくもく」を、どうしてそう読むのかの解説がない。
いちはちじゅうのもくもく、違う人から二度聴くという演出は初めて聴いた。噺家がセリフを間違って、ごまかしたというわけではなさそうだ。
それはもう聴いたと定吉に言われたので、「ひとつとやっつでとっきっき」を思い付いたらしい。こちらも読み方の解説はない。
サゲは「定吉、まつりばやしか」「いえ、平林です」。サゲについては無数のバラエティがある噺である。
仲入り前は桂伸治師匠。当然長講。
宿屋の仇討という、もともとよくできたサスペンス満載の楽しい噺を、丁寧に語る師匠。
だが、どうも今一つわからないのだ。
噺を知っている人間は、どこを楽しめばいいのだろうか。
ただし、一度ピントが合うと、とても楽しい師匠でないかという予感だけは濃厚にするのである。
芸協の寄席に行くとなると、こうした師匠を合わないと切り捨てていては、まるで楽しめなくなってしまう。
帰途、鶴見駅から京浜東北線に乗ろうとしたら、ホームにボンボンブラザースの鏡味繁二郎先生(ヒゲの人)がいた。先生、荷物たくさんお持ちでした。
さすが芸人さんは、相方と一緒には帰らないのだなと変なところに感心する。
群衆で気配を消してしまう芸人さんも多いけども、繁二郎先生は常に芸人としての気をナチュラルに発散していて、とてもよく目立つ。お年は見た目とのギャップが大きく、実に76になる。
ボンボンブラザースはこの日も鉄板の芸。
鼻の上に紙を載せて客席をふらふらする繁二郎先生、扉を開けて外に出てしまうというネタは初めて観た。