三笑亭可風(上)

TVの落語もいいものである。ちょくちょく生の高座を聴いている私もそう思う。
生の落語以外は認めないと、TV落語を避ける人もいる。
だが私など、寄席に行きたいと思った人は、しばらくTVで慣れてからのほうがいいんじゃないかと思っている。

radikoでもって全国のラジオでも落語が聴けるし、聴いている。
ラジオのほうが想像力を喚起していいなんていう人もいる。これにも反対はしないのだが、ラジオよりTVのほうが、落語の平均レベルが高い事実もあったりして。
ラジオではなぜか、アマチュアの落語もよく流れている。

TVの落語はおおむねレベルが高い。もともと出られる人のレベルが決まっている。
だが、そういうコンセプトでない貴重な番組もある。
思わぬ人が出ているのが、千葉テレビの「浅草お茶の間寄席」。
もちろん、トップクラスの人も多数出ているが、いっぽうでNHKの「演芸図鑑」に出られないレベルの人も、お見かけする。
一度聴いて、ああやっぱりと納得して録画を消したりなんかして。

ただ、決して一流とは呼ばれない人の中に、案外好きな人がいたりする。だから、玉石混交のこの番組に、文句を言う気などさらさらない。
浅草演芸ホールの実際の高座をそのまま流すことには、大きな価値がある。とりあえず放送してもらわないと、好き嫌いも判断できないんだから。
そんな中から今日はひとり。落語芸術協会の、三笑亭可風師を取り上げたい。
この人だって、浅草お茶の間寄席ならしょっちゅう出るなんてことはない。私のコレクションにあるのは、2件だけ。

  • 2017年「おばばサミット」
  • 2019年「猫の皿」

2件だが、新作と古典の両方。
出囃子は、Wikipadiaでは「もしもしカメよ」とあるが、実際にTVで聴くと「ハイサイおじさん」である。
沖縄出身でもないのに。

芸協の寄席に通う回数が少なめなので、気になっているのになかなか遭遇しない噺家もいる。
先日、初めて生の高座が聴けた三笑亭夢丸師など、そのひとり。
可風師もまた若手の真打。夢丸師の翌年の、2016年に真打昇進している。
このぐらいの年数が、超売れっ子でない限りはもっとも大変な時期だと思う。寄席のトリを取れる人は少ないし。
だが可風師、いずれ抜け出てくると確信している。

可風師、真打昇進後には聴いていないのだが、二ツ目の可女次(かめじ)時代に一度聴いたことがある。ずいぶん昔。
落語の内容は覚えていない。だが、印象だけは強く残っているから不思議だ。
まだふわふわしていた芸だったように思うのだが。

この人は19歳で落語協会の古今亭志ん馬(8代目)に入門したのに、直後に師匠に死なれてしまい、そのままいったん落語界を去った。
前座のときのすぐ下が、今の春風亭柳朝師なのだそうだ。
志ん朝一門の噺家の記した、「よってたかって古今亭志ん朝」にも、この古今亭志ん吉さんのことが触れられていたと記憶する。
その後小笠原でウミガメの調査に従事したりして(だからかめじ)、師匠の死から8年後に、三笑亭可楽師に再入門という回り道。

ちなみに出身は静岡・磐田。
静岡県出身の噺家は無数にいるが、怪しい人が多い。芸協では鯉昇に昇太。いずれも怪しい。
落語協会には百栄・花いちという、さらに怪しい人もいる。
今度真打昇進する、円楽党の三遊亭鳳笑さんも確か磐田だが、怪しさ随一。
可風師もこの中に混ざり、そこそこ怪しい人である。褒めているのである。

明日は可風師の落語に迫ってみます。続きます。

 

作成者: でっち定吉

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