柳家花緑弟子の会4(下・柳家花いち「へっつい幽霊」)

仲入り後は、本日のお目当て、花いちさん。
花いちさんもまた、圭花さんのケチの噺を受けてのマクラ。ケチマクラ特集。
「私はケチじゃないんですけど、前座時代ケチと言われてました」。
ケチじゃないんです。後輩に奢るお金がないんです。
前座の頃はこう見えて結構とんがってましたし、奢らないキャラで通ってましたと語る花いちさん。
あるとき、後輩のいっぽんさん(現・柳家かゑる)に、アニさんご飯行きましょうよと言われた。
先輩だから出さないといけないが、財布を見ると1,200円しかない。
ラーメンでいいかとラーメン屋に行き、いっぽんさんに「なんでも食え」と声を掛ける花いちさん。
いっぽんさんは、最も高いチャーシューメン大盛を頼んだ。
残ったお金で半ライスを頼む花いちさん。さすがにいっぽんさんに、そんな状況なら最初から教えてくださいと言われた。

年末年始は、余興を見せる機会が多い。
南京玉すだれを披露しようと思った花いちさん、肝心の玉すだれを忘れる。
先日は赤羽岩淵で緋毛氈忘れていたが、よく忘れる人だな。
玉すだれができないと断ろうとしたら、一緒にいた小んぶアニさんに、いいからやれと命じられ、エアで玉すだれを披露する花いちさん。
このエア玉すだれが大ウケだったと。
小んぶアニさん、そこまで見切っていたのならすごいですねだって。

それから、前座時代で思い出したのか、橘家文左衛門師(現・文蔵)の紙切りの話。
年始は故郷の浜松で、楽一アニさんを会に呼んだが、楽一師の師匠は正楽師。
師匠・花緑の芝居で鈴本。ヒザの正楽師が遅れている。
それを見て、下りたばかりの文左衛門師が、ハサミと紙を持って再度高座に上がる。
ハサミ試しに「○」を切ってやんやの喝采。
あろうことか、客に「ご注文を」と声まで掛けた。ノリのいい客が「藤娘!」。
藤娘は切れないので、じゃ、三角を切りますと言って、△を切り抜き、客にプレゼントする文左衛門師。
これ、どこかで聴いたことのあるエピソードだ。
寄席は楽しいですと。そうですね、まったく。

本編は楽しい一連のマクラと何の関係もない、へっつい幽霊。
冬の噺には思えないけど。でも、前の週に圓太郎師の「化け物使い」も聴いたっけ。
1年半前、この会に初めて来た際に聴いた噺だ。新作を先に認知した花いちさんから、初めて聴いた古典落語がこれ。
かなり衝撃を受けた噺で、隅々までよく覚えている。まあ、被っちゃったのだが、楽しい噺が聴けて嬉しいと思おう。
へっつい幽霊には大別して2種類あるが、若旦那の出てこない短いバージョンのもの。
なのでマクラがたっぷりあったけども、時間を10分余して終了。もうちょっとやって欲しいが、まあいい。

二度目でも楽しいへっつい幽霊だったが、あまりにも強烈な印象とともに脳裏に刻み付けられていたので、ほぼその再現になってしまった。文句言う気はまったくないが。
「パクチー」も、「黄泉にGo」も入っていた。
だが、「親方強いですね」という、当時もっとも印象を受けたセリフだけがない。
もう、ばくち打ちの主人公を、記号的に強く描こうとする努力すら放棄したらしい。そのほうが花いちさんらしくていいやな。

ちなみに、もっと面白くなるのではないかと、聴きながら思った部分がある。
花いちさん、古今亭駒治師の持つワザ「ボケっぱなし」が使えるのではないかと。
幽霊が「足がすくんで動かない」とか、バクチの一発勝負に負けて「あたし真っ青でしょ」とか。
このあたり、突っ込まなくてもクスグリとして成り立つんじゃないかと。
決して誰でも使える手法ではないと思う。突っ込まないということ自体が、優れたツッコミでなければならないから。
でも花いちさんだったら、顔を一瞬ゆがめるだけで、きっとツッコミが機能する。
私が勝手にこう思う以前に、花いちさん、すでにこうした部分のツッコミをあえて控えめにしているように思った。

3人の演者と花ごめさんに見送られてらくごカフェを後にしました。
大満足です。

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厩火事/へっつい幽霊

作成者: でっち定吉

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