両国寄席8 その3(三遊亭萬橘「長屋の花見」上)

三遊亭上楽師は、過去に聴いたことがあった気がしたが、どうやら初めてらしい。
この師匠も鳳笑さんのパーティの話。朝7時半まで飲んでましただって。だから声がガラガラですみませんとのこと。
実に7次会まであったのだが、2次会までしか記憶がない。でも5次会のカラオケはかすかに記憶があるそうで。
前日は雪まで降っていた。披露パーティは原則黒紋付だが、天気の悪い場合はスーツでもいいですよと主役が言ってくれることもある。
後輩たちに確認し、スーツで行った上楽師だが、他の全員は黒紋付だったのだそうな。
なぜか司会の王楽師に、主役の頼みだと謎かけを披露させられ、さらに三本締めまでやってくれと。もっと偉い人がたくさんいるだろうと。
披露した謎かけは教えてくれなかった。
謎かけは、パーティに出ていた楽生師が得意なので、いざとなったら力を借りようと思っていたんだそうだ。
先日、楽生師のマクラにも、この上楽師が出てきた。仲がいいようである。

本編は軽く楽しい宗論。
宗論は決してCDには入らないが、寄席ではまま出る噺である。
マリアが処女のまま懐胎したというエピソードからは、白百合女子学園に矛先が向かうのが多い。だが違う。
親父が、父親なしで子を産むなんて小間物屋のみい坊と一緒だなと。それに息子が応じ、お父様、あれは建具屋の半公が父親ですだって。
小間物屋のみい坊といえばたてはん。このほうが古典落語っぽくていいね。
古典落語といっても、息子はキリスト教である。
讃美歌を歌おうとするが、途中までしか歌詞を知らないというギャグ。

仲入り前は、これもお目当ての萬橘師。直前にちょっと寝せてもらってリフレッシュ。
萬橘師、最初からメガネなしで登場。
ふだんマクラの途中でメガネを取るのは、客席を観察してから本題に入りたいかららしいのだが、この日はその必要がないのだろう。
まだ41なのに、頭が真っ白になってきた。でもこれはこれでカッコいい。風格が漂うかというと芸風的にそうでもないのだけど。

落語はこんな状態だが、高輪ゲートウェイ駅にみんな集まって世の中どうなってるんだ。
3時間待って切符買うなら、ここ両国に来て聴いてから戻れるだろうと。
ちなみに師は、山手線から秋葉原で乗り換えて両国に来る。乗り換えの際に、親子の話を立ち聞きする。
親父が、「高輪ゲットアウェイ」と言ってた。
ゲートウェイから出ていってどうするんだ。

桜が咲いたそうですねと萬橘師。
みなさん、落語にいちばんいい季節はいつだと思いますか。
春はよさそうに思いますが、花粉症がひどい噺家もいます。春はだからボーっとしててダメですだって。
夏は暑いし、冬は寒いのでやっぱりボーっとしています。だからいいのは秋だけなんだそうだ。
そんなマクラから、この時季おなじみの長屋の花見。
普通の長屋の花見ではない。まったく聴いたことのないバージョン。
こんな型はない。明らかに、萬橘師が自分で作りあげたものである。
兄弟子の三遊亭小圓朝師(故人)がこの噺を、喬太郎師の番組でごくスタンダードに演じていたところからも、それがうかがえる。

場面はいきなり、花見会場から始まる。
長屋の連中は、場所取りをして勢揃い。今からやってくる、大家と月番たちを待っているのだ。
つまり、大家は何の用で呼んでるんだろう、きっと店賃の件だろうというシーンが丸々ないのである。
長屋連中は大家を待ちつつ、深く感謝している。彼らも命がけで場所取りをしたのだが、それも大家の意気に応えてである。
大家を待ちながら、あんないい大家はいないと言って、お前らも店賃納めなきゃと言いあうのだ。ここでおなじみの店賃問答が入る。
ようやく大家と、月番たちが料理と酒を持ってくる。全然嬉しそうでない月番たち。
大家からはなんの予告もない。酒を注がれて、一杯やって初めてなんじゃこりゃとなるのだ。

続きます。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。