両国寄席8 その5(三遊亭竜楽「井戸の茶碗」)

クイツキは代演で、三遊亭鯛好さん。ラジオ大好きおじさん。
私はラジオちょい好きおじさんだが、鯛好さんは倍速でもって一日中、録音したラジオを聴いているのだとか。
愛楽師匠は、ワキにいい仕事ができてそっち行っちゃいましただって。急に入るいい仕事って笑点?
TVの仕事も急に入ることがあるようで、ないともいえない。

鯛好さんも、鳳笑さんのパーティの話をちょっと。
師匠方は、辛そうなのに誰も朝まで帰りませんだって。
萬橘師は5時半で帰りましたけど。5時半って夕方? 朝? 萬橘師は下戸だそうだから。

泥棒のマクラ。春先のピッキングは、くしゃみで手元が狂うのであまりいい時季じゃないと。
「ピッキング詐欺」って言ってた。住居侵入と窃盗で、誰も騙してないから詐欺じゃないけどね。
本編は締め込み。久しぶりにこの噺聴いた気がする。泥棒ものでは一番好きなんだけど。
そして過去に聴いた、この人の高座で一番よかった。
風体や口調がいかにも噺家っぽい人。客席に合うととても楽しい。
頼りないが人のいい泥棒が、本人のニンに合っている。こんな泥棒なら、夫婦喧嘩でいたたまれなくなっているはず。
この泥棒、しばしば困り顔をする。困り顔をする鯛好さんの顔、どこかで見たことがあるなと思ったら、顔文字のこれだ(>_<)。
(>_<)を見たら鯛好さんを思い出してあげてください。

ヒザの先生は上がらず、トリの三遊亭竜楽師。黒紋付。
お客さん19人、マスク着用率低めですねと。
寄席は開いていても、どこも客は少ないようだ。

師はちょっと前に、米国公演から帰ってきたばかりだそうで。
もう少し日程が早かったり遅かったりすると、行けないし帰ってこれなかったろうと。
今回は日本語で、普通に落語をしたのだそうだ。
だが、あらかじめそう断っているのに、日本語のわからないアメリカ人が来たりする。だから英語の小噺を入れたりした。

知らなかったが、竜楽師はユーチューバーデビューしたそうだ。師の外国語落語DVDを出している会社が協力してくれているのだ。
日本の和菓子の紹介。
よく海外公演をする師とすると、日本の食文化をもっと知らねばならないのだと思うのだそうな。
先日は公演があったのだろう、佐賀に行って多数の甘味を味わって、収録をしてきた。
佐賀には、出島の警護をしていた歴史があり、砂糖も安く手に入ったため日本の和菓子、洋菓子を牽引してきたのだと。
いつもながら、マクラに教養が溢れる竜楽師。

日本の為政者は、他の国にない文化を持っていた。武士は食わねど高楊枝。
為政者が庶民から略奪するのではなく、自分たちから貧乏をしようという気風。これを海外に紹介したいのだと。
そこから井戸の茶碗。
マクラが長めで、8時30分終演だとすると、残り20分しかない。その時間じゃできない。
というわけで、一昨年聴いた井戸の茶碗と同様、時間オーバーの熱演でありました。

そのときとは、微妙に変わっている。
屑屋を敵として付け狙うのなら、なんで二階にいるんだという疑問に対し、手裏剣を使うんだよというのは前回あったかな。
あったかもしれないが、なかなか新鮮。
正直清兵衛さんに、前を通る際に声を出すんじゃないよと仲間がアドバイスする際、「くずや」と言ったら、ガラと窓が開く、「クズガラ」だというフレーズは初めて聴いたはず。
ひょろびりとかダシカン、たてはんみたいな、落語らしいフレーズ。

私がもっとも数を聴いている竜楽師、演目が被るのはもう、さすがに仕方ない。
でも、被ってもまったく同じということはない。

人情噺の得意な竜楽師だが、この噺に関しては多くの人のように人情噺としてではなく、爆笑滑稽噺として描くのだという。
それはそうなのだが、そんな楽しい噺の隅々から、人情が噴き出してくる。たまらない。

コロナに負けぬ、楽しい両国寄席でありました。

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作成者: でっち定吉

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