先日、NHK・Eテレで「SWITCHインタビュー 達人達」という番組を流していた。
ゲストふたりのトーク番組である。Eテレらしく、インテリジェンスに充ち溢れたプログラム。
柳家喬太郎師と、東工大の准教授、伊藤亜紗という美学の先生との対談。
最近、同じく東工大の中島岳志教授のラジオについても当ブログで取り上げたところ。
東工大には知性が詰まっている。しかも文系のエリアでも。
もっと早くブログに出すべきだった。2日午前0時から再放送していたからご案内できたのに。
出すのが遅れたのは、内容が大変に濃くて、消化に時間を要したためである。
番組冒頭でいきなり、鈴本でやったウルトラ喬タロウの模様が映し出される。
いきなり喬太郎師の悪態でもって番組がスタートする。「古典だ、本寸法だ、ぶっ飛ばしてやる! 芝浜なんかできねえよ!」
客は大喜びだが、ちゃんと「言い過ぎました。すみません」と付け加えるのが喬太郎節。
このところしばらく、春風亭一之輔師を注視していた。
その際、古典・新作の違いなど問題にならないぐらい、一之輔師が喬太郎師から相当の影響を受けていることに改めて気づいた。
こんな悪態の放り込みかたも、実によく似ているものだと思う。
もちろん、表面的な類似性のことを言ってるのではない。トータルに噺を捉えたときの、ネタとしての素材のいじり方、その精神のことである。
番組には、NHKで過去オンエアした喬太郎師の落語が挟み込まれるが、これらはすべて動画を持っている。だが、ちょいちょい挟み込まれる、ウルトラセブン落語のDVDは持っていない。
政府から10万円もらったら買おうかな。貯金に回すのはよくないし。
番組前半は、川崎駅前の怪獣酒場が舞台。キョンキョンのホームグラウンドという触れ込み。
喬太郎師は、ウルトラマン仕様の着物である。
店舗の入り口で、ジャミラの顔をした真実の口に手を入れ、入店禁止である正義のヒーローでないことを証明してから入店するふたり。
餅つき怪獣モチロンの紹介をしたりしながら。
番組が取り上げる、ポートレートの喬太郎師は、「母恋くらげ」でイカの所作をしているポーズ。
怪獣酒場のカウンターで、ウルトラ怪獣について熱く語る喬太郎師。
非現実でかっこいいものにあこがれていたと。
祖師ヶ谷大蔵に住んでいた小学生時代、円谷プロに忍び込み、怪獣のぬいぐるみを見つけて喜んでいたそうで。
喬太郎師の創作ノートが映し出される。タイトルは「純情日記神保町編」。
それから、ネタ帳が映し出される。
「古典」「自作」「他作」なんてページを分けているのだろうか。「復刻」はあるのだろうか。
「自作」というページに自筆でネタが書いてある。
横軸には、「札幌」「青森(弘前)」「大館」「秋田」「花輪」「名古屋(岐阜)」「京都」「大阪」とある。
地方の落語会は相当前から予定が決まっている。恐らく年の初めに、行く場所をマッピングして、ネタが被らないようにするのだろう。
縦軸には、自作新作落語が並んでいる。ほんの一部なので残念だが。
- 日曜日のカルテ
- すみれ荘201号
- 宴会屋以前
- 喜劇駅前結社
- ほんとのこというと
- 諜報員メアリー
- 怪談のりうつり
- 中華屋開店
- いし
- 派出所ビーナス
- 寿司屋水滸伝
新作落語の歴史を伊藤先生に語る喬太郎師。
「純情日記横浜編」は、オチケン時代に作ったもの。30年前に作った噺は、喬太郎師の中で一つの人格となっている。
この噺を、教えを請うた人に稽古を付けるのだが、語りながら、元カノといるみたいな違和感を持つ喬太郎師。
人のものを借りてやっているような。
だが、違和感の先を超えると、「おかえり」と感じた。噺が修業して帰ってきたのだ。
いっぽうで、同じ初期の噺「すみれ荘201号」は、一度も出ていったことがない。「あいつ(純情日記)が行ってるから、ぼくはここにいますよ」と噺が言っている。
なんだかよくわからない。だが、われわれファンにとっても、なにかどこか、わかる気がするではないか。
噺は生きているのだ。
喬太郎師の落語論にしびれるのだが、この深い番組の、まだまだほんの導入部。
今日取り上げた部分では、伊藤先生のほうはまだ聞き役でしかない。だが、じきに二人の対談は化学変化を起こしてくる。