落語の「鉄」人(その5・桂しん吉「鉄道戦国絵巻~関西編~」)

落語の「鉄」人のトリは、桂しん吉師で今日の目玉、「鉄道戦国絵巻~関西編~」。
ご存じ古今亭駒治師の新作を、関西鉄道界に置き換えたというもの。
しん吉師は、志の輔師の「みどりの窓口」も関西に移し替えたという人。これは未聴。

駒治師の鉄道戦国絵巻は、何度聴いただろうか。今年もすでに一度聴いている。
その関西編だということで、楽しみにしてきた。
本家に対するオマージュにも溢れた、実に楽しい噺であった。
私にはわからない部分はなかったが、マニア度の高いこの噺、一緒に行った家内はよくわからなかったそうだ。
大阪出張もたまにしていたので、まったく知らないことはないにしても、さすがに南海汐見橋線などはわからない。
でも、わからなくても楽しいはず。
息子は筋金入りのテツなのだが、中学生になって親と落語を聴きにいくのに抵抗があるようで、今回はついてこなかった。
たぶん後悔しているだろう。

しん吉師、一部のお客さんに向かって、今日の飲み会はいろいろ考えて止めましたと業務連絡。この会がハネると、いつも人形町の「キハ」という、鉄道立ち飲み居酒屋で打ち上げしているのだそうだ。お客さんも一部参加するので。
調べたら日本橋亭から徒歩10分なんだね。私も行ってみようかな。
ネタおろしということで、この噺独特の、お武家さま言葉で多少つまづくシーンもあった。なにしろ他の噺に応用が利きづらいスキルだからな。
でもきっとしん吉師、全編公家言葉に置き換えられないか、一度考えてみたに違いない。私は勝手にそう睨んでいる。

本家鉄道戦国絵巻は、東急電鉄から東横線が脱退し、JRと一緒になるというので、他の東急路線と全面戦争に入るというもの。いったいどう料理してくるのか。
しん吉師は、東淀川区の出身であり、阪急電車を見て育ったという。
大きくなったら阪急電車になりたかったって、先の駒治師に被せる。
長ずるにつれ、国鉄や他の私鉄の存在を知り、世界が広がっていったのだそうで。
というわけで、主人公?は、阪急電鉄。
そして脱退するのは、同じ阪急阪神ホールディングス傘下にある、阪神電鉄。
阪神は、近鉄・山陽と相互直通運転を始めたのを機に、ひそかにこれらと一緒になる手はずを進めていたのだ。
阪神を手放した阪急には、甲子園球場、タイガースという看板がなくなってしまう。ここで部下から、「タイガースはええんちゃいますか」というツッコミが入る。なにが「バースの再来」だと。

阪神の中で唯一、日ごろから虐げられている武庫川線だけが阪急の仲間につく。
2両編成の武庫川線ネタは楽しい。なぜ阪神なのに、ジャイアンツカラーの赤胴で走らねばならないのかと。
そして、近鉄からリストラされて恨み骨髄の伊賀鉄道がはるばる参戦。伊賀鉄道は忍者なので、近鉄情報を得るのが得意なのだ。
松本零士デザインの忍者電車(元・東急)が走っていることも知っていてよかった。
私も結構テツ? 自分ではそのつもりはないし、それで鉄道落語の会に来るわけでもない。だけど、こうしてみるとわりと詳しいな。
難波の隣、桜川で阪神・近鉄の乗務員交代があることなど、われながらよく知っていたものだ。これも噺のキーになる。

本家鉄道戦国絵巻への最大のオマージュが、西宮北口で分断された阪急今津線の南北統一。
今津駅で接続する阪神を攻撃するために統一を図るのだ。
本家における、東急目黒線と多摩川線との南北統一を念頭に置いていることまでわかる客が、よく笑う。
もうひとつあった。桜川から難波、日本橋を、南海と地下鉄の協力を得て押さえ、「なんばウォーク制圧」というもの。
これは、本家の「東横のれん街奪取」から来ているのだろう。もっとも、渋谷駅が大きく変わったので東横のれん街のほうは、本家のクスグリからはすでに消えてしまっている。

ストーリーは細かい部分までことごとく覚えているのだが、逐一書くのもいやらしいし演者に悪いので、ほどほどにしておく。
いずれにしても、関西私鉄を股にかけた戦いが繰り広げられるのである。
調子に乗っていた阪神だが、近鉄との内紛を起こし徐々に敗色濃厚。
ついには直接、阪急に頭を下げに来る。
ここから芝居噺になるのが、さすが米朝一門。よく知らないのだが、原点は菅原伝授手習鑑のようだ。
菅原道真左遷の世界を借り受け、本家とはまったく違う結末を用意して綺麗にサゲる。実に楽しく、実に疲れる盛りだくさんの落語会でありました。
寄席の場合、ほどほどなのが楽しい。だが落語会(しかもマニア向け)は、もうこれでもかという内容。満腹です。

米朝事務所が、今後大阪からしっかり、東京の会もコントロールできますように。

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作成者: でっち定吉

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