堀船せんべえ寄席(中・林家つる子「反対俥」)

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林家つる子「反対俥」

林家つる子さんをお見掛けするのも1年ぶりだ。
美人度がアップしてるのでは。
女流の中でも、美人で面白落語という人気の筆頭だが、私は池袋の新作まつりで聴いた「豆腐屋ジョニー」(白鳥作)が忘れられず、この幻影を追いかけ続けている。
マクラからしつこい語り口全開。同郷の後輩、三遊亭ぐんまさんの話。
マクラが面白くなくたって、私は文句なんて言わない。
でも、落ち着いた語り口だったら、クスっと場が和んだであろう内容だったのだ。あえて選ぶしつこい喋りでウケを外すと、なかなかツラいのでは。
個性を発揮しようというのは極めて大事なこと。だがしつこい芸で道を究めようとすると、茨の道が待っているものだ。

だが、本編はよかった。
古典落語の「反対俥」だが、ほぼ新作みたいなもの。アレンジが強烈なので。
死にそうな俥屋は出てこないので、正確には「反対」ではないけど。
いきなり威勢のいい俥屋が登場。
とにかくなんでも飛び越えてしまう俥屋。つる子さんも、繰り返し座布団から飛び上がる。
落語の客の反応が薄いので、戻ってもう1回飛び越える。おかげでその後連続ジャンプすると、中手が飛ぶ。ちょっと姑息なやり方だが。
川を飛び越えるが途中で落ちてしまう。水中パントマイムを見せるつる子さん。扇子の魚も登場。
この俥屋、富士山まで行ってしまう。
ただ富士山は、東京を北に向かって到着する土地ではない点だけ、ちょっとなんだかな。サゲにも関係してくるのに。
もしかして、この会場が上野駅の北にあるからということ? 確かに地元の人なら、上野駅を南に捉えている。
なら丁寧だ。でも、厳密にいうと行き先を新橋駅にしなきゃならない。

「芸者上げられるぐらいなら俥屋やってない」で頭を下げて、拍手をもらってから、オチらしいものを言ったが先を続けますだって。
橘家圓蔵がやっていたギャグだ。弟子の半蔵師が、いいお爺さんなのに著しく体力を使うこの噺をやって、偽サゲを披露していたのは黒門亭で観た。
つる子さんは誰に教わったのかな。
ちなみに圓蔵も半蔵師も、客にさりげなくサゲたと誤認させているのであり、頭下げていったん完全にフィニッシュした形から先を続けるというのは、つる子オリジナルと思われる。

面白落語としていいデキだったが、この日感じたいい点は別にある。
つる子さんの所作の美しさである。
この噺は特に、絶えず俥屋の所作がある。その所作にスキがなく、とことんキレイ。
これだけ所作が綺麗な人は、徐々に落語の中身を変えていくに違いない。つまり、10年経ったらまるで違う本格スタイルになっているのではないかと。
面白落語の経験だって、ちゃんと本格落語の役に立つ。
ともかく現在のつる子さん、実に面白い人。

林家扇兵衛「蛙茶番」

席亭である、巨体の林家扇兵衛さんも1年ぶり。前回見たときより痩せた? ただ腹は相変わらず。
同期の3人はみな大卒だが、この人だけ高卒なので、まだ若くて28歳。
技術的にはともかく、味があって結構好きな人。
このような机を重ねた高座は安定してていいですと。足のついた机で作った高座で、私は沈んだことがありますだって。
マクラでもカネの話をやたらとするのは、師匠譲り。

1年前に聴いた「長短」に関しては、技術的にも感心した点が多かった。
だが、この日はいただけなかったな。
この「蛙茶番」だけのことならいいのだが、噺の編集力に欠けている気がする。
人から教わる古典落語であっても、噺は自分で作る以外にない。
全体的にダラっとしたその展開を整理して欲しいな。
ダラっとした展開なのに、「お釜とふんどしと縁があっていい」みたいなクスグリを忠実に入れられると、ちょっと白ける。
扇兵衛さんの脳内に蛙茶番スタンプカードがあり、クスグリを一個入れるごとに押していく、全部埋まったら演者的にはOK。そんなイメージの一席。
扇兵衛さん、普段はオリジナルのクスグリが面白いと思うが。まだ噺が手の内に入っていないのだろうか。
もともと、口調は滑らかなほうではない。結構言いよどむ。これが、もたつき感に拍車をかける。
口調がよくなくても構わない。むしろ、自分の言葉を毎回選んでしゃべる分、スリリングだったりすることだってある。
編集次第では楽しく聴かせられるはずと思うが。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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