国立演芸場8 その1(柳家さん遊「小言幸兵衛」上)

桃太郎 り助
辞世の句 花いち
蜘蛛駕籠 柳朝
夢の酒 小袁治
小猫
小言幸兵衛 さん遊

 

締め切りのある仕事を午前中にやっつけたので、短い時間の寄席に行くことにする。
<おっさん言うとった。「俺、今日は頑張ったから自分にご褒美や、寄席に行くで」。暇なら暇で行くくせに>
ナオユキ風。
先週も2回出掛けてるのになあ。

4日である。巣鴨スタジオフォーの四の日寄席も気になるし、亀戸では好楽師がトリを取っている。
しかしこの日目指すのは、国立演芸場。
先日ようやく再開したこの演芸場の定席は、コロナ対策で昼の部が2部構成、入れ替え制になっている。
1部(主任:蜃気楼龍玉)の開演は11時15分。昼というより、朝の部。
2部の主任が、このたび名前の変わった柳家さん遊師。旧名柳亭小燕枝。
芸風によく合っている名で、ずっと昔からさん遊であった気もしてくる。それはそうと改名後最初の主任だ。
さん遊師は、私はもっぱら黒門亭で聴いている。柔らかい雰囲気を漂わせ、落語を聴く満足感をしっかり味わわせてくれる、実に得難い師匠。
10日までに行けばいいわけだが、番組トップバッター、交代出演の二ツ目がこの日まで花いちさん。せっかくなので花いちさんの千秋楽に出向くことにする。

1時間半のこの席は、通常の興行より500円安い、1,600円。仲入り休憩なし。
東京かわら版で200円引いてくれるので、1,400円。2時間の亀戸が1,000円であることを考えると若干高い。
だが通常の料金設定にある「仲入り後入場」の1,470円より安い。そう考えれば高くもない。
実際のこの席、前座が10分前に出る。そしてさん遊師が10分オーバーしたので、休憩がないことも考え合わせ、2時間みたいなもんだ。
相変わらずカネのことばかりすみませんね。落語会のチケット前売りで全部買っておくような人種ではないので。

国立は、アルコール消毒と検温。検温はマシンを持った係員が、ずいぶん遠くからすでにこちらのひたいを狙い撃ちしている。
チケット売り場で席を選ぶが、半分ふさいでるにしても、なおガラガラ。
20人ぐらいの入りだった。
もっとも次の中席、お盆興行は円楽師主任でもって、土日は完売。

お目当て、主任のさん遊師から先に取り上げる。
黒紋付に袴。
こんな姿はお見かけしたことがない。改名後で気合が入っているのか、それとも新宿でのトリの際もこうなのか、それは知らない。
名前が変わっても、挨拶は同じ。なんのおかまいもできませんがゆっくりしていってください。
コロナの中、また梅雨明けの酷暑の中、ありがとうございますと。
そして、聞きたかった改名の話。
先代小さん門下で6年間にわたり内弟子を務めたさん遊師。内弟子になったのは、兄弟子に騙されたんですだって。
名前は、入門したときは「小よし」でしたと。さん遊師は語らないが、これは本名の「よしお」から来ているはず。
さん喬師は「稲葉」だから「小稲」だし、小ゑん師は「みのる」だから「みの助」。
二ツ目になるとき、師匠に相談したら、「小團治」と「小三太」が余っていると。
同時昇進の武助とふたり、ジャンケンで決めなさいと言われた。基本的には名前なんてなんだっていいんだと。
武助アニさんが、ジャンケンでなく、彼女に相談して決めてもいいですかという。その結果、アニさんの彼女が小團治を選んだので、さん遊師は小三太になった。
真打昇進のとき、また名前どうしようと師匠に相談すると、俺がいったん名乗ることが決まりかけていた柳亭小燕枝になるかと言われた。

これは史実である。私も何の本だったか忘れたがこの内容、読んだことがある。結局、師匠は土壇場で小三治を名乗ることになったのだった。
さて当時のさん遊師、せっかく柳家なのに、柳亭かと思ったそうで。今では柳亭の噺家はみな柳家の人だから、特に抵抗なさそうに思うのだけど。
真打の披露目に備え手ぬぐいも染め抜いたところで、師匠が話しているのを耳にした。「俺、小燕枝って名前は嫌いなんだ」。
なら早く言ってよとさん遊師。
そんなこんなで名前を変えたかったのだと。まあ、さすがにそれは嘘だろうけど、「柳家」に戻りたかったのは本心なのかもしれない。
名前は今年度から変えたかったのだが、コロナで協会の事務員も大わらわ。それで7月1日に遅れたそうで。

さん遊の手ぬぐいを染め直さないといけないが、今までの業者が後継者がおらず廃業することになる。
なので得意先に「型」を返しているところ。だが、「柳亭小燕枝」の型はもういりませんので処分してくださいとさん遊師。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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