神田連雀亭ワンコイン寄席28(中・金原亭馬久「臆病源兵衛」)

2番手馬久さんは、自分のマクラを振らず、昔の暗闇は怖かったそうでと付随マクラを始める。
それでも、慣れると暗闇も走ったりできます。それで昼間、なんでもないところで転んだりなんかして。
あれ、これ何のマクラだっけ。つい最近聴いたような気がする。
先日どころか、同じ週の月曜日に聴いた、「臆病源兵衛」のマクラである。その際は柳家小んぶさん。
極めて珍しい噺を、同じ週に聴くとは夏の不思議。面白い噺なので、もっと掛かって欲しいネタだけど。

馬久さん自身からも、臆病源兵衛を聞いたことがある。2年前の8月、黒門亭の「光る二ツ目の会」で。
珍しい噺、しかも季節限定のものを、3年間で4席目だ。面白いことである。
2年のうちに馬久さん、かなり上達していると思われる。この人は何でもそうだが、企まないのがいい。
ごく自然体で進めるのだ。
馬久さんの売り物になりそうだ。もうなっているのか。
聴いたばかりの小んぶさんのものと、非常によく似ている。小んぶさんが金原亭から直接教わっていることが改めてよくわかった。
意外と地の語りの箇所も多い噺だが、そこもほぼ一緒。
ふたりの語りが脳内で立体になる。なかなか面白い。
進め方はほとんど一緒なのだが、演者の個性は違うので、やはり噺の雰囲気は変わってくる。

小んぶさんのものと違ったのは、ビビった源兵衛が、無意識に八っつぁんを引っぱたくのは一合徳利。
これが本来のはずだが、実際のところ一合徳利では、人を殴ってもなかなか死なないと思う。それで小んぶさん、こけしに替えたのだろう。
あと、極めて臆病で極めてスケベな源兵衛が、八っつぁんに手をつないでもらうというのは小んぶさんのアイディアなのか。
馬久さんは、八っつぁんの袖にすがって付いていく。

聴いたばかりの噺だが、徐々に馬久さんの個性が表れてきて楽しい。
馬久さんのニンは、臆病でスケベな源兵衛よりも、後半の主人公である八っつぁんのほうによく現れるようだ。
小んぶさんは、源兵衛によく個性が出ていたから、このあたりがやはり違う。
馬久さんの愉快な顔も、八っつぁんに向いている。
生き返った(もともと死んでないのだけど)のに、死んだものと思い込み、ここが極楽か地獄かわからない八っつぁん。
一瞬考えて、「・・・やっぱり地獄か」というあたりがたまらなくおかしい。

サゲは、記憶に新しい小んぶさんのものとやや違い、ちょっとだけ先がある。
鬼婆みたいな、軍鶏の羽をむしっている婆さんに、ここが地獄か極楽か尋ねる八っつぁん。
「娘のおかげで、極楽だよ」のあと、鬼婆だと逃げ出す八っつぁんに向かって婆さんが、「臆病な男だ」。

臆病源兵衛、楽しいのに絶滅しかけているのにはさまざまな理由があるだろう。
現代人にとって真の暗闇が想像しづらいという問題もあるが、これぐらいのことは、落語ファンなら大丈夫。
だがもうひとつトラップがある。吉原ほど高級ではない、根津あたりの岡場所、通称「地獄」の説明が必要だということがあるのだろう。
でも、小んぶさんも馬久さんも、説明がさりげなくていい。
「地獄」というのは結構強いワードなので、序盤にごく軽く放り込んでおくだけで、終盤まで持つのである。
こうした二ツ目さんの努力が実れば、10年経って夏の定番噺になっていないとも限らない。なにが流行るかなんて、本当にわからないものである。

持ち時間は20分だが、25分程度できっちりやりきる馬久さん。

続きます。

臆病源兵衛/芝浜

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. ご無沙汰しています。うゑ村です

    最近臆病源兵衛が小さなブームになっているんですね。私は白酒師匠と馬久さんの臆病源兵衛を聞いたことがあります

    白酒師匠の臆病源兵衛はヘタレで女好きの源兵衛が勇気を振り絞って夜中家を出るところの描写が面白かったことを覚えています。馬久さんの臆病源兵衛は美声が印象的だという記憶はありましたがおっしゃる通り八っつぁんの方がよりニンが出ていましたね

    臆病源兵衛も元は古今亭(金原亭)の噺だったのが柳家にも伝わっているんですね。確か火焔太鼓も志ん朝師匠が「親父の噺だから」と古今亭以外には教えず守っていたものの没後は色々なところに伝わったと聞いたことがあります。話は逸れますが柳家小のぶ師匠の火焔太鼓は面白かった記憶があります

    噺が一門に守られるのがいいのかそれとも色々な落語家さんに伝わるのがいいのかそれぞれに一長一短あるかとは思いますが表現の幅を楽しむのも落語の楽しみなのかも知れませんね

    1. うゑ村さん、いつもコメントありがとうございます。
      「柳家小のぶ師匠の火焔太鼓」なんとまあ、おうらやましい。

      なんの噺が流行るか想像するのは楽しいものです。
      ブログにも書いたのですが、「夢の酒」をやたら聴くようになり、喜んでおります。
      それから「だくだく」ブームが二ツ目さんに到来したと数年前に感じたのですが、今ではどうなっているやらわかりません。

      古今亭は、珍品以外は世間に放出されてしまったかもしれませんが、柳家についてはまだずいぶんと一門に噺が残っている印象です。
      夢の酒もそうですね。
      誰も門外不出にしていないと思うのですが。

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