神田連雀亭ワンコイン寄席28(下・桂竹千代「鰻屋」)

トリは気が付くと1年ぶりの竹千代さん。
芸協カデンツァのメンバーとして、また古代史落語の第一人者としてもご活躍のようである。
残り時間は15分だが、10分弱オーバーしてきちんと一席仕上げる。
鮮やかなエメラルドグリーンの着物に袴を着けている。実にまた、野暮な表現ですみません。
満員でありがとうございますと挨拶。
最近、小さな小屋のほうが埋まるんですと。
始まった浅草下席は師匠・竹丸の芝居だが、400人のキャパなのに人数はここと同じぐらいだそうな。
私もコロナ明けの新宿と浅草に出向いたので、これがウソでないことがわかる。
なんなんでしょうね。
私も仕事を片付けたら、空いている寄席四場に早く行きたいのだが。できれば居続けで。

あまり大きな声では言えないのだが、と友人とドライブに行ったマクラ。
竹千代さんは一切語らなかったが、ドライブ相手は異性に違いない。内容には関係ないが。
ドライブ中たまたま入った飲食店で、元横綱曙の色紙を見た。そして翌日、また別の飲食店で曙本人(だと思った)を見る竹千代さん。
めちゃくちゃウケていた。でも冷静に振り返ると、少しも面白くないネタ。ちゃんとオチもない。
「つまらないネタを選びやがって」と文句言ってるわけじゃない。真逆の感想。
まったく面白くないネタを、スリリングに聴かせる竹千代さんの腕にいたく感銘を受けたのだ。この腕があれば、ネタを問わずスベリ知らずだなと。
このスキルはいったいどこから来るものなのか。理屈っぽい私は、その秘訣を探りたくて仕方がない。
もちろん、真に面白いマクラも聴いてますがね。

そして、このスキルがそのまま本編、鰻屋にフルに生きるのである。すごいや。
ちなみに先日、演題の表記について記したが、この演目も個人の好き嫌いでは「うなぎ屋」と書きたい。でも、見ない表記なのでやめておく。
「うなぎや」という表記は見つかったが、ひらがなの「や」は、屋台や棒手振り、店舗を構えていないお店につけるらしい(先代文治による)なので、あまり好ましくないと思う。
といっても、私も文治と異なる世間の慣習に基づき「うどん屋」「豆屋」「かぼちゃ屋」って書くけどな。

鰻屋という噺、季節ものでもあるしそれほど掛かるわけじゃない。稲荷町から六区、観音様から隅田川と描写されるので、噺の舞台である浅草ではそこそこ出てるかもしれない。
竹千代さんからは一度聴いた覚えがあるのだが、あれはTVだったか。
ただ、非常に落語らしい噺なので、頭の中に数少ない演者によるテキストがしっかり入っている。
さて竹千代さんの語り、マクラからもわかるがとてもスリリング。
ストーリーとしてはどこに連れていかれるのかわかっているのに、その口調を聴いていると、いったいどうなるのだろうと思う。
こういう経験をした際に、つくづく落語を聴くって本当にいいな、いい趣味だなと思い知るのです。
聴き手の脳が、演者に騙されているのである。もっと騙してもらいたい。

冒頭の、隅田川の水を飲まされるくだりを入念に。
むしろこっちがハイライト。面白い焦点の当て方。
前半も、そして本来メインの後半である鰻屋のくだりも、根底に漂うのは強烈なシャレッ気である。
緩い世界で緩い登場人物が楽しく遊ぶ、素敵な世界。

口調で聴かせる竹千代さん、独自のクスグリは意外と入れない。
だが、傷だらけの鰻が「大仁田」だって(普通は与三郎)。その隣に電気ウナギがさりげなくいて、電流デスマッチ。
電気ウナギは鯉昇師にもらったのだろうか。
あと、鰻をつかむ主人がびっくりして大声上げる。すかさず「源兵衛か」と入れごと。

スリリングな一席が、きちんと「前へ回って鰻に訊いてくれ」でふわっと着地する。

非常に満足なこの日の3席でした。来てよかった。
すべてが、夏を惜しむ季節ものでもあった。
こういうすばらしい日のある連雀亭ワンコイン寄席。ここへはしばらく、メンバーを厳選して来ることにします。

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この文治は先々代「留さんの文治」です

作成者: でっち定吉

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