三遊亭遊馬のツキイチ落語会(上・マクラ「楽屋改革」)

朝アップができなくなったが、おかげさまで当ブログのアクセスは絶好調です。毎日ご来場ありがとうございます。
なのだが最近、寄席のレビューを始めたとたん、アクセス数が落ちるのです。
皆さま、落語はお嫌いでしょうか?
私が好き勝手に書いたもののほうがお好きですかそうですか。じゃ、仕方ない。

さてこのところずっと忙しい。ようやくメドが立った本日金曜日は、出かけることにする。
この9月中席はもともと、池袋の柳家喬太郎師の芝居に行きたかった。でも一日寄席にいるほどの精神的余裕もなく。
江戸東京博物館である、「お昼のツキイチ落語会」に出かけることにします。一度行こうと思っていた会だが、3月からずっとお休みしていてようやく今月復活したもの。
両国の江戸東京博物館は1年ぶり。昨夏、馬石師の「臆病源兵衛」と小せん師の「夢八」を続けて聴きに来たものだ。
そちらは博物館主催の無料の会だったが、この遊馬師の会は貸席。なので博物館のイベント案内には出ていない。

両国は、円楽党の両国寄席を聴きに、たまに来るところ。
今回は本場所にぶつかった。国技館の前を相撲取りが行ったり来たりしているのを眺めるのは楽しい。
午後2時開演なのに、時間を間違えて1時間早く行ってしまった。駅前のマックに戻って仕事してから再訪。マックからも、街を闊歩する相撲取りがよく見える。

会場は1階の小ホール。料金は2,000円。
スタンプカードがあって、4回目に500円、8回目に1,000円割引してくれるのだそうだ。ささやかだが、また来る気になりますね。
お客さんはつ離れしている程度。平日昼間であり、女性が多数を占める。

転失気
蒟蒻問答
(仲入り)
井戸の茶碗

前座も誰も出ない。いきなり遊馬師登場。
3月から中止のこの会について語る。
再三博物館側から、「どうしますか」と訊かれたそうで。強制でないなら決行するつもりだったが、そうもいかなくなった。
最後は、貸しホール代を返してくれるというので中止にしたそうで。
昨年8月から始め、ようやく認知されてきたのにずっと中止になってしまって忸怩たるものがあったと。

我々の世界は、上が絶対なんですと。
そして、末広亭の2階でサボってタバコ吸っていて、師匠が来たので窓から火のついたタバコを放り投げた小遊三師の話。
部屋はけむたいが、手にタバコ持ってないから叱れないんだって。
上が絶対の中で、気働きをする世界。だが、この世界も変わってきた。楽屋で改革が始まったのだ。
どういうことかというと、「この師匠(遊馬師)はお茶を5杯出す」などという、マニュアルを残す前座が出たのだそうで。
東大出の頭のいい奴がこんなことを始めたのだと。
マニュアルに従って、遊馬師に色がついているだけの茶を運んできた前座がいた。遊馬師、その前座に向かって「飲んでみろ」。
前座は「いや」というが、なおも飲めと言って飲ませる。遊馬師が旨いかと訊くと「いや」。

名前は出さないが、これは春風亭昇吉さんを批判しているのである。
でも、このマニュアル化を「素晴らしい。旧態依然の落語界に対するインテリの改革だ」と褒めたたえる人もたくさんいるだろうな。
ホリエモンなんか言いそう。「噺家の修業なんて無意味だ、苦労して落語が上手くなるわけがない。オチケンの上手い奴連れてくればいいんだ」なんて。
そういうことじゃないのだ。
たびたびパワハラ事件のある相撲界もそうだし、先日報道された宝塚の改革もそうだが、本当に無意味な風習はなくすべき。
そんなことは論ずるまでもなく当たり前。
だが、お茶出しのマニュアル化によっていったい何が得られたのかという根源的な問題を、遊馬師は提起しているのだ。
前座が真に学ぶべき気働きは、マニュアル化によりむしろ阻害される結果になったのである。そこが問題なのだ。
だから、昇吉さんのマニュアル化については、合理的な制度を追求するビジネスの視点からも批判すべきものだと思う。失敗なのだ。

来年の真打昇進を控えている昇吉さんは、孤高の噺家である。こうした「マニュアル化」にもその萌芽があったのだな。
これは遊馬師ではなく、孤高の落語ファンである私の感想である。
まあ、問題があるとしたら昇吉さん個人にであって、東大にではないと思うけどね。
京大卒の噺家だって、西に2人、東にも2人いる。評判が悪いなんて聞いたことないので。
東大卒だってもうひとり、古今亭菊一さんが現れた。

修業という観点から、お寺の修行の話に入っていく遊馬師。
子供がひとり来ていたので、転失気を選んだのだと思う。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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