国立演芸場10(上・柳家小んぶ「強情灸」)

国立演芸場の定席は、コロナ対策で2部制に分かれた。
それ以来、3か月連続で出かけている。もともと、こんなに頻繁に来るところじゃない。
今月も、東京かわら版を持って出かける。過去2か月は2部のほうだったのだが、今回は1部。
主任は柳亭左龍師。
かなり好きな師匠なのだが、1年半ぶりである。そしてトリで聴くのは初めて。

今日も新橋から歩いていく。ルートはいろいろあるところ。
総理官邸前を抜けようとすると、警戒中の警官に呼び止められる。
山本太郎ではないのでおとなしく従う。

「どちらへ行かれますか」
「国立演芸場です」
「なにをしに行かれますか」
「・・・落語聴きに」

間抜けな質問だなあ。
演芸場に、落語聴く以外のなんの用事があるんだ。
まあ、向こうとしても訊かなきゃいけないことを訊いてるだけだろうけど。

演芸場に着いたら、係員が「こちらは国立演芸場です」。いや、知ってるけど。初めてこんなこと言われた。
歌舞伎と間違えて入ってくる人もいるんでしょうが。
いつものようにかわら版出してスタンプを押してもらい、席を選んでチケットを発券してもらう。
クレジットカード出して暗証番号入れて。これも極めて前近代的であるなあ。
まあそれでも、キャッシュレスなだけ国立はマシである。私の財布の中、現金が300円しか入ってない。

チケット出してくれる人が「今日の主任は、やなぎ・・・りゅうていさりゅうです」。
職員ぐらいしっかりしてちょうだい。

金明竹(前半) 与いち
強情灸 小んぶ
紙入れ 小志ん
田能久 窓輝
一風・千風
淀五郎 左龍

 

時間間違えちゃって、すでに前座の春風亭与いちさんが喋っている。
慣れない時間帯なもので、チラ見した開演時間に合わせてしまった。
金明竹をやっていた。前半だけ。
ネタ帳には「骨皮」って書いてあった。

お客は20人程度。まあ、こんなもんでしょう。
交互出演の二ツ目枠は、左龍師の弟弟子たち。今日は小んぶさん。
巡り合わせで、今年の夏まで聴いたことのなかった人だが、その後連雀亭でも聴いて3席目。
真打昇進も近い、実力派の二ツ目である。
この人が今日の当たり。

10分しかない枠だが、ちゃんと自分のマクラを振る。
冒頭、少ない客席を見てため息。これはやらなくていいんじゃないかと思う。
20年前の書籍、新宿末広亭春夏秋冬「定点観測」を読んでいて、ますますそう思うようになった。これは、本当に寄席が空いていた時代の本。
最近変に多かっただけで、アフターコロナの寄席はずっとこんなものだと思っていないといけない。

188cm、108kgですと自己紹介。背は高いが、兄弟子・喬太郎みたいに腹が出てる。
これは初めて聴いた8月の大岡山落語会で、コロナ太りだと説明していた。
頼まれればどこでも行きますと、産婦人科で喋った話。その際に、新生児を抱いたお母さんに、相撲取りと間違われる。

マクラとは関係ない強情灸。これなら6分程度でできる。
よく聴く噺であり、そして誰がやってもクスグリまで含めてほぼ一緒。
だが、小んぶさんの語り、実にいい調子。調子だけで聴かせてくれる。
峰の灸を据えた話を聞き、対抗してもぐさを盛る男について、小んぶさんは驚くほどあっさりとやる。
あっという間に消して「ああ、つめてえ」。
ご本人なりの強い美学を感じる。
言っちゃなんだが、火をつけてから身もだえるというのが、この噺の最大のウケどころだろう。それをやらない。
でも、流麗な語りでもってすでに満足している私、全然気にならない。
むしろそのあっさり振りに敬服する。
「石川や浜の真砂は尽きるとも 我泣きぬれて蟹とたわむる」もやはりあっさり。「石川が違うんじゃねえか」なんてツッコミ、野暮だからだろう、しない。

ただ端正な小んぶさん、1か所だけ渾身のギャグを入れてきた。
もぐさの数で張り合う男、「もっと据えろ。50、60喜んで」。
このギャグはまったく不発で、演者に返ってやらなきゃよかったと反省する小んぶさん。
別にスベリウケを狙ったわけじゃなくて、本当に思わぬ不発だったようだが、ナイスリカバリー。

交互出演の兄弟弟子、小太郎、やなぎもいいのだが、小んぶさんが聴けてよかった。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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