トリは再度の出番の花いちさん。
先の鯉丸さんのマクラを引いて、私も二ツ目に成り立てのときには自分で会を開いたものですと。
第1回の会が客ゼロということもあったんです。いや、本当に。
戸惑う客に対して「どうぞしっかり笑ってください」。
最初4人の会が、2回目2人になったりとか。
故郷・浜松では家族がチケットを売ってくれ、なんと100人集まった。だがその後の会で、プロモーターに任せてなにもしなかったら10数人だったとか。
家族の力は偉大だなと花いちさん。
実のおばあちゃんが、会で実質的に笑い屋を務めてくれたりとか。
しかし、今や東京かわら版を見ても、月の稼働日数が非常に多い、売れっ子二ツ目だからな。
私も故郷でいつか恩返ししたいものです、とマクラを締めて本編へ。
トリの一席は、「芝浜」と予想した。
かなり先鋭的な新作から、一般に人気のイイ噺まで、なんでも持ってる花いちさん。この日の落語会には、こういった需要を求める方面に合わせてきそうだと想像したのである。
花いちさんは、池袋とか、攻めていいところでは攻める。だが、いつも攻めるわけでなくて、ちゃんとわきまえている人。
この落語会は第1回でもあり、まずは客に受け入れてもらわなければならない。
となると、人情噺の大作でもって、満足してもらおうと考えるのでは。
だが人情噺であることまでは当たっていたが、「徂徠豆腐」だった。マクラと薄くつながる恩返しの一席。
珍しい噺を持ってるものだ。
徂徠豆腐、トリネタであり大ネタだが、このところなぜか毎冬に聴いている。竜楽、扇辰、蝠丸の各師匠であり、中身はそれぞれ、相当に違う。
花いちさん、誰に教わったのか、これらの師匠とはまったく違うスタイル。ただし、噺の空気に関しては柳家蝠丸師のものに似ていなくもない。
なんとなくだが、聴いたことのない林家正雀師のものっぽいななんて思ったりする。
花いちさんは、大ネタをずいぶん刈り込む人だという印象を持っている。実際、徂徠豆腐もかなり刈り込まれている。
まず冬の寒さの描写がなくてびっくり。いつ掛けてもいい噺になっている。
刈り込んだために展開は非常にスピーディだ。だが、本当になきゃいけないシーンはしっかり残っている。見事な編集力。
そして、人情噺としては語らない。徂徠豆腐を初めて聴く人は、そもそも人情噺だって感じないんじゃなかろうか。
だからといってギャグたっぷりで演じるわけではなくて、力の抜けた、楽しい噺として語るのだ。
なにも、どこも強調しないのだが、しっかり噺のインパクトは残る。なにしろ私、この日の夕食を豆腐にしたものな。
花いちさんはなにも押さない。客が勝手に噺を解釈して味わう。
クスグリとして「がんもどきも付けておけばよかったのに」が入る程度。実にシンプル。
実に不思議な一席。今から真打になろうとする二ツ目さんには、できない噺と思う。
実にあっさりとしつつ、中身の深い大作である。
来年の披露目では、一席ぐらい出そうな演目だ。
というわけで、なかなか面白い会でした。
第2回はどうなるだろう。メンバーの入れ替わりはないと思うが。
長津田の街はあまりにも寂しいが、会の料金も安く、ホールは立派なのでまた来てもいいと思っている。
会が続けば、ファンの質も上がってくるのだろう。
帰りは、田園都市線隣駅の田奈まで歩いてみたのだが、さらになにもなくて驚いた。青葉台まで行くと賑やかだけど。
東急ストアで豆腐を買って帰りました。