新宿末広亭3 その4(春風亭百栄「弟子の強飯」)

末広亭の続きものを1日休み、緊急事態宣言下で継続する寄席の弁護をさせていただきました
寄席はいいところ。
昨年まで数年間、妙に足が向かなかった末広亭も改めて実にいいところ。とんがった池袋にはない、寄席の基礎がたっぷり。
基礎だからといって、初心者だけが楽しむわけではないのだ。
この日はなかなか、わかっている人が多いなという印象。駆け込みで寄席に来るだけのことはある。

橘家文蔵「道灌」

橘家文蔵師は軽く道灌。こういう出番では、あまり悪ふざけはしない。
暮れにここ、末広亭で時そばを聴いた際、文蔵師は非常に小さな声で語っていた。演目的に、後半回収するための、あえてのスタイルだとわかる。
だけど、道灌で小声なのはよくわからない。省エネ? 先日池袋で聴いた「手紙無筆」は普通だったが。
それはそうと、道灌は文蔵師の十八番であり、今もっとも面白い道灌はこの人のもの。
首絞めるのが好きで、女形に憧れる八っつぁん。

林家しん平

林家しん平師は久々だが、この師匠は古典落語より漫談が楽しい。
実に面白かったその内容、三度結婚して三度別れたエピソード以外綺麗に忘れてしまった。
途中で、「あと5分だから古典落語はできないね」と言っていたが。
漫談の内容は、後になってふと思い出すことがあるが、どうやらそれもなさそう。魔球・消える漫談。それがいいのだ。
文蔵師のツイッターによると、しん平師また映画を撮るらしい。その準主役を文蔵師(サラ金の取り立て)がやるんだって。

ダーク広和先生も漫談主体だが、しん平師に印象がカブらないのはさすが。
トランプ投げ(風船割り)から始まり、いわゆる奇術ではなくマジシャンの腕試しばかり。緩くて実に楽しい。

柳家はん治「ぼやき酒屋」

どんどん進んで夜席も仲入り前。
前座噺ばかりが続く、寄席の基礎に満ちた末広亭は、ここで転換を迎える。
柳家はん治師。この師匠は、文枝新作を期待されてこのポジションにいるわけだ。もちろん柳家らしく古典も出すのだが、おおむね新作。
桂文枝師作の新作落語とは、「妻の旅行」「背なで泣いてる唐獅子牡丹」「鯛」など。
新幹線で大阪ヤクザと遭遇するおなじみのマクラから、この日は「ぼやき酒屋」。
男二人の会話だけでできているのだが、前座には決してできない、難しそうな噺。
もっと古い新作落語「居酒屋」のエッセンスも引き継がれている気がする。

会話がスラスラ進むことなく、いちいちいい具合にもたつくのがはん治師の味。
知り尽くしたストーリーでもって爆笑させられるところがすごいのだ。
文枝師の原典だと、「面白いことを常に言ってやろうと余念のない関西人」の会話であるが、東京に持ってくると、ちょっと角度が異なっている。
いかにも落語の世界に出てきそうな、違和感のない登場人物に変わっているのだ。
この日の客の多くが「ぼやき酒屋」を知っているんじゃないですかね。繰り返し聴く古典落語のような味わいである。

春風亭百栄「弟子の強飯」

仲入り休憩を挟みクイツキは春風亭百栄師。「こんにちわあ」。
仲入りのはん治師と同様、百栄師も新作を期待されているわけだが、求められるものはまた違う。バカ新作。
百栄師は鈴本でも末広亭でも、絶対に名前にまつわる定番マクラから始める。
「春風亭」のあとで自動表示される検索ワードのネタは確かに面白く、これは客がややとんがった池袋でもやる。ただ、ちょっと作法が変わっていた。
類推検索1位の「昇太」は当然として、その次は当然のように私が、といったん振っておいて、いやいや「小朝」だと持っていく。進化してる。
ちなみに現在実際にGoogleで「春風亭」を入れてみると、また自動表示の中身が変わっている。
「一花」が出る。新真打・柳枝より上だから、これはすごい。
「一蔵」まで出ても、なお百栄は出ない。別に売れてないわけじゃないのにな。

弟子入りの話。百栄師自身の弟子入りの話でいくらでも引っ張ることもできるが、そんなに時間はない。
本編は「弟子の強飯」だった。
なぜかNHK演芸図鑑で出していたので録画は持っているのだが、寄席で聴いたことはない。持ち時間の短い末広亭向きなのかもしれない。
落語の弟子入りをネタにした新作落語。弟子入りを師匠に志願しているのかと思いきや、実はそうではない。
客もこれで爆笑。
似てない三遊亭圓生のモノマネが最高。別に似てなくていいのだ。
演芸図鑑のものも短いのだが、さらに刈り込んでいる。定番マクラがたっぷりあるところを見ると、本編を意図的に短くしているようである。
いっぽう圓生のモノマネで、茶碗の湯をすするシーンが入っている。茶碗の蓋を丁寧に外す百栄師に大爆笑。
ネタバレはしないほうがいい噺。そんなに書くことないですが。実に楽しい。
なんで強飯なのかがよくわからない。古典落語「長崎の強飯」と関係ありそうで、なさそうで。

江戸家小猫先生は本当に安定している。ヌーを見にアフリカに行った話。
コロナが終結したら猫八襲名があるんじゃないのか。なにも情報を持たないまま、勝手にそう思っている。早く継いだほうがいい。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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