緊急事態宣言直前の4月22日、新宿末広亭の通しで楽しんできた。
昼席の仲入り後、午後3時から夜席のトリ、午後8時半まで5時間半。
中での食事が禁じられている現在、ほぼこれが限界かな。
落語好き、イコール寄席好きではない。
落語は落語会で聴くものと決めて、寄席に来ない人はたくさんいる。上級者になればなるほど。
一番の理由は「なんでお目当て以外に、聴きたくもないヘタクソを聴かなきゃならないんだ」てなとこか。
わかるのだが、お目当て以外が出るのが寄席の魅力である。色物も放り込んだバラエティ振りにこそ価値がある。
上方落語家は、天満天神繁昌亭を初心者獲得の仕掛けと考えているようだが、違和感大。
さて、私の行った末広亭のひとつ前の芝居、4月中席昼席の話。
桂文治師のツイートである。
昨日も志願代演。ハプニングはその後起きた。お客さんが携帯を見ていたと高座から怒る仲間。我々は余程の事がない限り怒れない。お目当てまで本や新聞を読む嫌味なお客もいる。それでも淡々と演る。寄席は良い雰囲気のバトンをトリに渡すリレーなのだ。殺伐とした世の中、寄席だけは和やかでありたい。
— 桂文治 (@11bunji) April 14, 2021
(タップして続きのツイートまでご覧ください)
ツイッターの読者にはあいにく伝わらなかったのだが、文治師の怒りの対象はお客ではない。寄席の仲間である演者のほうだ。
携帯を見ていた客への苦言と取った客の返信に対し、逐一釈明をする文治師。
あれは演者が悪いんです。前から寄席で揉めてばかりで、出禁にもなってましたと。
叱られたお客のほうは常連であって、携帯を見ていたのもそもそも誤解であったらしい。
はて芸協に、そんな乱暴な噺家いたっけかと思った。
幸い末広亭はツイッターに代演情報を載せてくれているから、遡るのは簡単。
文治師の読者の多くは噺家だと思っているようだが、そうではない。「悪い演者」は漫談の国分健二先生である。ああ、なるほど。
最近図書館で借りて読んだ、長井好弘氏の「新宿末広亭春夏秋冬『定点観測』」(2000年の出版物)にも、この先生が、笑わない客にキツく当たる様子が描かれていた。
困ったもんだ。噺家さんのように前座修業をしていない人は、思わぬ部分で傲慢だったりする。
芸術協会会員である色物の先生も実に多く、落語の定席に日ごろ出ていない人のほうが多いぐらい。客に失礼な芸人は、簡単に干される。
文治師、政権には厳しいが、お客には実に丁寧だ。隅々まで読んで感服した。
さてこの話題から、少々角度の異なることを考えた。
寄席というバラエティに富んだ場所では、どうしても演者に対し客の気が乗らないことはある。私にだって、そういうことはある。
だが現に、気が乗らないからとおかしな振る舞いをしていると、芸人からいじられかねない。今回みたいに「叱られる」ことすらある。
まるで気の乗らない高座に、どう対処すればいいだろうというのが今日のテーマ。
まず、ダメな例。
- 携帯を見る
- 読書する
- プログラムを熟読する
- 席を立ってロビーへ出る
そもそも携帯は電源切っておかないと。
電源切らないで音だけ消すのは簡単だが、そういう人の方が、ここぞというところでやらかすものだ。
自分が粗忽であることを知っている人なら、いったん切ろう。私は知っているから、必ず切る。
読書の誘惑には、何度か私も駆られたものだ。図書館通いの私、だいたい紙の本を1冊は持っている。
読書がダメな理由は、ただ一つ。「演者の気に障る」こと。
気に入らない演者と距離を置くために読書するのもダメか? ダメです。
自分が気に入らない演者だからといって、他の客の全員が気に入らないわけじゃない。なら、寄席に不自然な行為を持ち込むのは客の暴力。カスハラになりかねない。
プログラムやチラシは、読みたくなることもあると思う。
寄席が配っているものだから、本よりは不自然さは軽い。だが、熟読していると結局演者の気に障る。
席を途中で立つのも、相当演者の気に障るから喧嘩上等の振る舞い。トイレに立つなら、最初から抜け出ておいて、途中で戻ってきたいもの。
ちなみに、私は次の方法で逃げている。あるいは立ち向かっている。
- 寝る
- 寝たふりして考えごとをする
- 目の前の高座のどこがつまらないか、ひたすら考える
「寝る」行為の罪が比較的軽いのは、高座の評価とつながっているわけでないから。
人間、眠いときは常にある。寄席は長丁場だし。実際、私もよく寝ている。
そして、好きな噺家さんでも眠くなる。波長のいい、柳家小せん師など実に気持ちいい。
寄席で寝ると、噺家に叱られると思っている人もいるかもしれない。そんな演者は談志だけだ。
きっと志らくも危ないが、志らくではたぶん寝られないと思う。
ハズレの高座でちょうど眠くなると、これ幸いと眠りに逃げてしまう。もっとも、寝ていて気持ちよくはない。
目がばっちり冴えているときもある。そんなときも、寝たふりして考えごとをしたりする。五感の一つだけでもシャットアウトすると、楽になる。
その結果、眠くないのに寝るのに成功することもあるが、そううまくいかないときは、高座の欠点を、論理的に納得いくまでひたすら考え続ける。
ブログのネタになれば儲けものだ。ちょっといやらしいけどな。
(2023/6/4追記)
なんだか検索アクセスが多い記事ですが、「柳亭楽輔 末広亭出禁」ワードで引っ掛かるようですね。
すみません。その内容はなにも書いてません。