与太郎前座の壱福さん、メクリを替えるときに、いつも客席を見る。
それは別に間違った作法でもなんでもないが、この人が客席を見るたび、妙になにかをアピールしているように見える。
彼がメクリを替えるたび、毎回笑ってしまいました。
主役登場。いつも黒紋付の三遊亭遊馬師。
先に出た遊子さんをとにかく褒めちぎる。
遊子さんが一番偉いのは、私のところに稽古に来ないことです(場内爆笑)。
あんな噺(鮫講釈)を自分で見つけてきてね。私はあんな噺、しませんしできません。
遊子さんは一門の可愛い後輩ですけども、系列では叔父さんに当たるんですよ。私の師匠、小遊三の弟弟子ですからね。
遊子さんは確かに、遊三師が30年振りに採った弟子として知られている。
極めて不謹慎な話だが、83歳の師匠に万一のことがあったら、二ツ目の遊子さんは師匠を替えなければならない。
その際、遊馬師や遊雀師の弟子になることも考えられる。
そうなると、師匠から見て弟子であるとともに曾孫弟子になるという、前代未聞の位置づけとなる。
まあ、あと5年ぐらいで真打だろうから、師匠にも頑張っていただきましょう。小遊三師より数値がいいらしいし。
以上は遊馬師が高座で語ったことではなく、私の脳内ツイートですので念のため。
今輔師の話。
今輔さんは先代の名前を継いだわけですが、真打昇進(襲名)時にはピリピリしていました。
名前の重さだけでなく、一門の総意というものも、のしかかるわけです。
その点私は気楽なもんです。
これも私の脳内ツイートなのだが、いずれいい名前が継げるんじゃないか。
だんだん空いてくることだし。
本編は真田小僧。一席目なので軽めだ。「うちの真田も薩摩に落ちた」まで通しだが、でも軽い。
飽きた噺の筆頭なのだが、遊馬師に掛かると実に楽しいものでした。
こんな工夫の数々。
- 全体的に刈り込んでいる
- 与太郎っぽい金坊(もちろん馬鹿ではない)
- 金坊が、親父から明日の小遣いを前借りしようとするくだりがない
- 金坊が、親父の留守中に来た男のモノマネをする
- おっかあのあえぎ声など入れない
- 正体は按摩さんだという、金坊の話のオチがスピーディ
- 「近所の按摩さんが」と言ってからカミシモ変えて、「え?」と親父。再度カミシモ変えてネタバレ。
- 金坊の「真田太平記」再現シーンがない
- 金坊の六連銭の並べ方再現がない(いきなり懐に入れて逃げてしまう)
私の聴いた、ベストオブサナダボーイだと言って過言でないです。既存の噺を踏襲しているのにまるで違う。
金坊が低い声のモノマネで「奥さん」と語るのが大爆笑。
古今亭菊志ん師がこんなのをしばしば入れてくると思うが、菊志ん師と違ってあざとさゼロ。
遊馬師の真田小僧の動画、持ってたはずだが、初めて聴いたような衝撃。
遊馬師につき「大胆な刈り込み」を行うイメージも、私は確かに持っている。だがいっぽうで、つい長くなってしまうイメージもあるのだ。
真田小僧に関していえば、実に見事な編集。先人が手を付けてこなかった部分をしっかり改良している。
私の嫌いな演出がことごとく排除されている。落語に対する理想が師と一致しているようで嬉しい。
つまり私は、次のような演出が嫌いなのだ。
- 無駄に間延びする(客を意味なく焦れさせる)
- 必然性のないエロ
- 親父を馬鹿に描きすぎる
- 金坊を悪魔のように描きすぎる
金坊が、親父の話の盗み聞きで、真田太平記を見事にそらんじてしまう部分、抜いた人がいただろうか?
ここを入れなくても、金坊の適度な賢さは描ける。そして、親父を無駄に馬鹿に描かなくてもいいのだ。
その分、噺が非常にスムーズになっている。
感動しました。
続いて古今亭今輔師は袴姿。
遊馬師は2か月ぐらい先輩なんです。同期扱いしてもらってありがたいです。
本格古典落語の遊馬さんと、脱力系新作落語の私とはいい組み合わせじゃないでしょうか。
遊馬さんと一緒に会をやったことはあまりないですけど、二ツ目時代になかの芸能小劇場で会を開いたことがあります。
三笑亭夢花さんも一緒で、「落語焼」というタイトルの会です。意味わからないでしょ? 私にもわかりません。
やっぱり2回で終わりました。
その会に来たって人います? いないですね。知ってたらマニアすぎてむしろ怖いですね。
落語好きの子供でもなんでもなかったが、大学で勧誘されてこの道に入った話。
アップダウンクイズの話から、都市伝説の話。100メートルを6秒で走る口裂け女。
口裂け女はポマードに弱いんです。それから、べっこう飴が好物なので、べっこう飴を与えてその隙に逃げるといいらしいんですけど、100メートル6秒だからどうやっても追いつかれますね。
今輔師の本編に続きます。