久々の百科事典です。「い」の巻はこちら。
当初はこのシリーズ、決してアクセス数多くなかったのですが、徐々に増えてきました。
ありがとうございます。
さて、「い」「ろ」「は」「に」と来て、今日は「ほ」。いろは順でなく、50音順ですが。
「ほ」は結構多くて、2回です。
庖丁
「包丁」でもいいが、こう書きたいところ。
三遊亭圓生の十八番だった。もともとは、音曲師(今はいない)が掛ける噺だったという。
女房を追い出すため、計略でもって、久々に出会った男に狂言を仕掛けてもらう。
間男の現場をでっちあげようというのだ。
作戦通り男はかみさんにちょっかいを出すが、当のかみさんは身持ちが固い。激怒される。
うんざりした男は、かみさんに狂言のネタを明かしてしまう。
呆れたかみさんは、逆に亭主を追い出し、いきなりやってきたこの男と一緒になることにする。
どう考えても無理な展開なのだが、落語の嘘を本当にできれば実に楽しい噺。
庖丁はサゲでちょっとだけ出てくる。
法事の茶
「法事」と「焙じ」を掛けているので、「ほうじの茶」の表記のほうがいいかもしれない。
この噺を一番掛けているのは古今亭菊之丞師である。師の得意な、幇間もの。
ストーリーは一応あるのだが、わりとどうでもいい。菊之丞師はこの噺で遊ぶため掛けているのだろう。
幇間・一八の持つ不思議な茶を焙じるたび、昔の役者や噺家など、さまざまなものが現れる。
要は、黒門町の文楽やら談志やらの、モノマネをやりたいのであった。
放送禁止
身体障害、差別がらみの噺は、放送に載せにくい。按摩の噺が代表例。
だが最近は、あからさまな言葉狩りに対する反発もある。明らかな人権侵害でない場合なら、放送コードはずいぶんと緩くなったようである。
「金明竹」で「気が違った」という重要なキーワードを変えさせるといった、無茶なことも減っている。
今では昔の音源に、ピー音が入ったりもしない。
棒鱈
棒鱈は田舎者の隠語みたいなもの。
「浅黄裏」と蔑称をもらう、薩摩あたりの田舎侍を笑う噺。
もっとも最近は、この侍をトリックスターとして楽しく描く演出が多いように思う。現代の東京人は、昔の江戸っ子のようには田舎者を馬鹿にはできないから、これでいいのだろう。
とはいえ、今でも鹿児島ではやれない演目だと思う。
ホームラン
漫才協会所属の漫才コンビ。「勘太郎」と「たにし」。
落語協会の定席にも出演する。
背の高い勘太郎師匠が、客席に直接語り掛けるネタが多い。
ホームランの約束
春風亭百栄作の新作落語。
病床の少年にホームランを誓うという、ありものネタを見事に裏返した傑作。
球団の企画でスター選手が少年の病床にやって来るが、選手は義務感丸出しで、実に面倒くさそう。
少年は、実は選手のファンでもなんでもなかった。
少年が好きなのは野球ではなく、落語の立川流。
最近サゲを変えていて、百栄師、新作の配信で思いっきり志らくをdisっていた。
思わぬところに、落語協会の噺家の標準的な思いが見えるものである。
星新一
ショートショートの神様として知られる作家(故人)。
落語っぽい小説も無数に書いているが、中には本当に落語として書いたものもある。
「ネチラタ事件」や「四で割って」など。今やる人はいないが。
星野屋
落語には珍しい、終盤のどんでん返しが見ものの噺。
とはいえテーマ自体はむしろ普遍的な、「人心を試す」というものである。
牡丹灯籠
三遊亭圓朝作の長編怪談噺。
「お札はがし」が特に有名で、これからの時季はあちこちで聴けるだろう。
今でも「真景累ケ淵」と並び、この大作に挑む人は実に多い。
北海道
北海道はあまりにも寒いので、している最中の小便が凍ってしまう。
なので便所には金づちが置いてある。女便所には釘抜きがあるらしい。
火事が起こっても、火も凍ってしまう。
法華
落語に出てくる仏教の宗派は、多くが法華。すなわち日蓮宗。
「鰍沢」では、総本山の身延へ出向く最中に遭難する。
法華が縁で、田舎から出てきた男が豆腐屋に拾われるのが「甲府い」。
あとは「法華長屋」なんて珍品もある。
先代三遊亭圓歌も、出家して日蓮宗の坊さんになった。
身延で修行中に心筋梗塞を起こして入院。「寺から病院に行ったのは俺だけだ」。
ほっとけない娘
柳家小ゑん師の新作落語。元は落語協会新作台本募集に寄せられた作品。
小ゑん師といえばオタク落語なのであるが、「ほっとけない娘」は、主人公を仏像オタクの若い娘に設定したところが見事である。
オタクの娘だって、実は男女交際になみなみならぬ興味がある。
寄席では時間に合わせて掛けるが、フルバージョンには鎌倉の名刹の言い立てが入っている。
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