亀戸梅屋敷寄席23(中・三遊亭兼好「花筏」)

日ごろ噺家さんの楽しいマクラを書かせていただいている。
とはいえ、マクラは噺家さんの財産。覚えているままに全部書いてしまうのは、気が引ける。一之輔師のように、ファンの作法に苦言を呈する人もいる。
なのであえて省略して、その結果語られた内容をじきに忘れてしまう。そんなことも多々ある。
兼好師の見事なマクラ、やはり記憶のまま書き起こすのは申しわけない。それでも、本編までトータルで含めた見事な構成のありように敬意を示したいのだ。
楽しいマクラがことごとく、本編「花筏」の仕込みになっていたのにも驚いた。この部分はさすがに、具体的には書かないけども。

楽しい相撲マクラから、すでに想像は付いていたが本編は花筏。おバカ相撲噺。
昨日の記事を書いて確定し、アップの予約をした後で、何の気なしに「三遊亭兼好 花筏」で検索を掛けてみた。なにか情報が得られないかと思って。
そうしたら、私のブログが5番目にヒットしたので、本当にびっくりした。
あれ、オレ1回聴いてるじゃん! 4年前の暮れの両国だ。
相撲噺の多い円楽党、同じ人から同じ相撲噺を二度三度聴いてもまるで不思議はないが、それにしても完全に忘れていた。
昨日ちょっと触れた、眞子さまネタを聴いたのもその席だったことを思い出した。

今回の花筏、本当に衝撃を受けて帰ってきたのだが、聴いてる最中の既視感はまったくゼロだった。
だから、同じ噺ではないのだ。骨格はもちろん一緒でも、中身はまるで違う。
わずか4年の間に、兼好師は花筏をこの上なくグレードアップしていたのだった。
兼好師のCDにこの演目が入っていないのもうなずける。未完成品だったのだろう。
4年前の私自身の筆致も、見返すとなんだか微妙だ。楽しんでいる感は伝わってくるけど、なんとなく高座に焦点が合っていない。

4年前の記憶をたどっても、今回と一致するシーンはひとつも出てこない。
唯一、千鳥ヶ浜が客席で隠れていて、無理やり土俵に上げられるシーンぐらいか。それだって、細部にギャグが詰まっているから大違い。
これ以外はもう、すべてが異なる。
ちょっと上手かった円楽党のホープは、4年で名実ともに日本を代表する噺家になった。あくまでも私の認識での話だが。

さらに驚いたこと。
誰の花筏であっても通常、提灯屋(花筏の替え玉)がいきなり、千秋楽の取り組みを聴いてたまげるシーンが入っている。
約束が違うじゃないか、まあ待て提灯屋、お前さんもいささかやり過ぎたぞという流れである。倒置法であって、これはこれでなかなか劇的な展開だと思う。
だが兼好師、この流れを再びひっくり返し、時系列通りに並べ替えている。
親方の元に、勧進元がやってきて、千秋楽に花筏を出してくれと直談判するシーンから入っているのである。
料理人、酒屋の小僧、女将がそれぞれ、花筏がいかに元気かを証言するという、実に楽しいシーンが続く。
4年前にこれはなかったはず。あったら衝撃を受け、書いていると思うのだ。

4年前の記事では、「行司が常識人なのが効果的」だと書いている。
念仏を唱え合って涙を流すふたりの力士を、行事が冷静に眺めていたのがかつての噺。
だが今のバージョンでは、行司もあまりの場面に情けなくなって、一緒に涙を流している。
ツッコミ役をボケの側に入れてしまったのだ。結果、ますますアホな人たちの噺にすることに成功している。

ちなみに花筏は、柳家喬太郎師で楽しい一席を聴いた。自分の腹も活用した一席。
だが、師は自分でも認めるスポーツ音痴で、大相撲のことについてもまるで知識がない。だから、相撲に関するリアリティはない。
花筏なんて、相撲のリアリティがなくても語れる噺ではある。だが、相撲オタクの兼好師は、そんな噺の隙間を、相撲で埋めてしまうのだ。
相撲が頭に入っているので、二人の大男が土俵の上で涙を流すそのシーンを画として見事に描く。
これには驚かされた。好角家のやくみつるや能町みね子に聴いて欲しいね。
相撲オタクの兼好師が、国技館で相撲を観つつ、高座のネタを一生懸命探しているさまを考えたら、二倍笑えるではないか。

そして、口から出る言葉と逐一シンクロする、所作の数々。
だんだんトリップしてくる。
以前の東京かわら版インタビューで、「ひとつひとつのネタでは面白いことは言っていない」と自己分析していた兼好師。
その際は、まあそうだなと分析の的確さに感心した。
だが今や、ひとつひとつのシーンで常に面白いことを言っている。
ひょっとすると、ラジオで聴いてもそこまでではないかもしれない。だが師にはビジュアルの武器がある。

感動に充ちて亀戸を後にしました。
明日は冒頭に戻ります。好吉さんのことも書かなくちゃ。
 
 

作成者: でっち定吉

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