亀戸梅屋敷寄席23(下・三遊亭好吉「雑俳」)

前座はおなじみのしゅりけんさん。兼好師の三番弟子。
前座が2人しかいない円楽党だが、その分毎日のように喋っているので上達が尋常でなく早い。また上手くなっていた。
満員の客を見まわし、こんなのは久しぶりで戸惑いますと言って、「小児は白き糸のごとし」から、お弔いごっこ、懲役ごっこ。
着物の汚れていない子供は、「終身懲役」というのが普通なのだが、しゅりけんさん律儀に「無期懲役」と言い換える。
でもなあ。無期懲役は労働させられるので、着物は汚れるのだ。
落語のクスグリ、いちいち引っ掛かることはないのだけど、根本的に間違っているものが多いのも事実。
どうせ間違っているのだから、終身懲役でいいと思うよ。話題の「禁固刑」とかいうと生々しいし。
おっかさんは「お前も終身刑にしてもらいな」と言っていた。そういう刑もないし。

かなり生意気だが、行き過ぎはしない金坊。
親父がこづかいくれないので、「ぬかみそに小便してやる」。これに対し親父が「そんなことしたらお前のチンチンちょん切ってやる」。
金坊が、「じゃ、あたい、カルーセル麻紀の弟子になる」。
誰に教わったのか、いにしえのクスグリ。今の人に変えたとして「カバちゃん」「能町みね子」なら私は笑うが、年寄りの反応は薄かろう。

「1銭はここまで」を手を広げる仕草付きでやる。
このあたりに師匠の影響を、この日は特に強く感じた。
なんてことのないクスグリを絶妙に繰り出してウケるのも、師匠の影響だと思う。
3人の弟子の中では、師匠に一番似ているのではないかな。

続いて、受付を手伝っていた二ツ目の三遊亭好吉さん。兼好師の弟弟子。
好楽一門の中で、私が過去、最も遭遇しなかった人。だが先日神田連雀亭で聴いた「甲府い」は見事だった。
もっとも「甲府い」だけでは、どんな噺家なのかよくわからない。どんな高座を務めるのか楽しみにしてきた。

こんなに大勢のお客さんとは。今、都内の寄席でここが一番多いですよと。
披露目の鈴本はともかく、それ以外には本当に勝ってるかもしれないな。
なんだか袖から音が聴こえるので振り向く好吉さん。「前座がいやがらせをしていますが」。
メクリを指して、「好吉」をこないだ「よしよし」って呼ばれました。荒川じゃないです。
ちょっと難しめのギャグだがウケていた。
換気のため開けた上の窓から、幼稚園児なのか大きな歓声が聞こえてくるがそれはもういじらず進む。幸い、じき収まった。
趣味が合えば年の差があっても仲良くできますと振って、隠居を訪ねる八っつぁんへ。
「道灌」「一目上がり」などに共通のやり取りが、とても楽しい。いつまでも聴いていたい。
こう持っていけるのは、すごいウデ。
落語協会に、少ないながらいるタイプだ。
趣味の話を振っているので、共通のくだりから雑俳へ。
雑俳独自の部分に入っても、引き続き楽しい波長を流し続ける。
「吐いたことがあるのか」「こないだ飲みすぎまして」なんてクスグリは入れない。別に面白くもないし。

雑俳の八っつぁんは、アドリブに強い、言語感覚の優れたすごい男。
だが得てして、序盤のうっかり振りからの断絶を感じてしまわなくもない。
好吉さんの八っつぁんについて言うと、断絶がまるでないな。一見ぞろっぺえだが、実は最初からインテリ八っつぁんだからだ。
そのままスーパーザッパイストになってしまうのも、わりと自然。
好吉さんのインテリぶりが、自然とにじみ出るのでしょう。
われわれ客は、二人の意外なぐらい知的な会話に、脇から混ぜてもらって楽しむのだった。

続いて仲入り、好太郎師も満員の客に触れる。先日聴いた「ちりとてちん」はいただけなかった。
「密通」という言葉がありまして、とやや強調するように好太郎師。聴きながら、頭の片隅で「密通のペリカン便」というダジャレを考える私。
鶴なんて鳥はつがいで添い遂げるそうですが、いけないのが鳥の中でもペリカンですなと好太郎師。これを密通のペリカン便と言いまして。
場内爆笑だが、私はひそかに赤面していた。
かつて誰かから聴いたネタかな? 違うと思うけど。

ここから入った「紙入れ」はなかなかの一席。
「見ましたか」「見つかりましたか」は抜くわけにはいかないが、強調しないところがいいなと。
強調されると、他の客は知らないが私はシラけてしまう。

亀戸はやはりいいですね。人気者が出ない日は、本当に少ないみたいだが。
でも私も、最近は人気者のいる日にしか行っていないのだった。

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作成者: でっち定吉

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