亀戸梅屋敷寄席9 その4(三遊亭鳳笑「看板のピン」)

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亀戸の冒頭に戻る。
前座のしゅりけんさんは「弥次郎」。普通のデキ。
しっかりしゃべる人で好感は持っている。

この次の、兼太郎さんの代演に出てきた二ツ目さんが大外れ。
初めて聴いた人ではないのだけど、こんなにつまらなかったろうか?
フラっぽいものが漂っていて、かつ口調もしっかり噺家らしいのに。
抽象的な表現だが、肚ができていないのだと思う。
自分の面白いと感じたことを、いかにして客に共感してもらうか、その想いが足りない。
肚ができていれば、実のところさして面白くない内容のマクラでも、しっかり楽しく聴けてしまう。
つまらない落語も掛かる。それは仕方ない。だが、先の連雀亭のイマイチ振りと併せ、この時点でかなり私凹んでいた。
そしてつまらない落語を聴くと、私はなぜつまらないのか分析せずにはおれないのだ。特に、このように一見形はちゃんとしている落語の場合は。

頭の半分使ってつまらなさを分析してしまっていたもので、次の鳳志師、半分しか楽しめなかったのであった。

その、仲入り前の三遊亭鳳志師は初めて。すでに円楽党、聴いたことのない人のほうがずっと少ない。
なかなかいい試し酒。集中できなかった点申しわけない。
先日、柳亭小燕枝師の見事な試し酒を聴いたところだが、鳳志師のもまたすばらしい。
盃の所作も、久蔵のキャラ造型もいい。
一杯ごとに進んでいく酔っ払いの型もいい。
「五升本当に飲めるかしら」と、ドキドキしたもの。
もちろん飲めるに決まっているのだが、知っている噺をスリリングに聴かせてくれる鳳志師、見事。

だが、環境にも大きな問題がひとつ。運営に苦言。
この師匠の最中、背後の楽屋がやたらうるさく、噺に集中できない。また、客が酒を飲み干す久蔵に注視している最中に。
違ったらすみませんが、声のでかさから、楽屋入りした萬橘師かと一瞬思った。
いずれにしても、関係者は気を付けてください。

鳳志師、ちゃんとした環境で再度聴き直したい人だなあ。
年齢を重ねたときに、すばらしい味になる人かもしれない。

盛り下がる私のテンションを救ってくれたのが、仲入り後、やはり代演の三遊亭鳳笑さん。
円楽党は、真打(円福師)の代演に二ツ目が出るのだな。
神田連雀亭でお見かけして、その怪しさに唸ったのはおととしのこと。巡り合わせで久々だ。

ピエール瀧を引いて、私やってませんからねと怪しさ満開で釈明する。
サプリをたくさん持って飛行機に乗ったら別室に呼ばれたんだそうで。そのおかげで会に遅刻したそうで。
落語のマクラで三道楽煩悩「飲む打つ買う」を説明すると、「打つ」に引っかかる客がいるのだと。いねえよ。
打つのは真打に昇進してからにしますと振って、看板のピン。ちゃんとマクラと本編がつながっている。

親分の真似をしたくなる男の、すばらしい変人ぶり。
変人というより、もはや変態。見開いた目に吸い込まれてしまう。
だが決して、変態落語ではなくて、親分の造型は非常にきちんとしているのである。
登場人物のベースが変人寄りにあるのだが、親分のほうはややまとも。そうすると、ちゃんと貫禄ある親分に見えるのである。
登場人物が全員躁病なのに、親分が比較してちゃんとして見える春風亭昇太師の看板のピンを思い起こす。

親分、オウム返しのほうを先取りして「目が遠くなる、耳が」と言い間違える。
だが、リカバリーが見事。うろたえたりせず、しっかり親分のセリフのままギャグにする。

「俺の見たところ、中の目はグだ」のオウム返しは抜いていた。
こちらはうっかりしたのではなさそうなので、なら親分のほうも抜けばいいのにと思ったけど、どうだろう。

鳳笑さん、円楽党二ツ目香盤のトップだが、真打昇進はいつだろうか?
楽しみです。

作成者: でっち定吉

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