浅草・落語協会真打披露 その6(林家正蔵「新聞記事」)

玉の輔師の後の出番に戻るが、翁家社中も、久々に観たらパワーアップしていてびっくり。
笑いどころを次々増やしている太神楽は、この和助・小花夫妻だけである。
二人とも、伝統芸能の担い手だがお笑いも好きなんだと思う。そして何がウケるのか、日々の舞台で常にフィードバックしている。
今年1月の落語会には和助師匠だけが出ていたが、すでに笑いが強化されていて驚いた。
夫婦でやると、さらに楽しい。仲良し夫婦漫才のような空気も漂う。
急須の芸の「手を使うのはなし」なんて、もうやめている。
タモリ倶楽部に出ていた太神楽師たちが爪痕を残せなかったのを視ていたこともあって、お笑いがパワーアップしたこの日の舞台には心底感動を覚えた。
傘の回しわけで、今は回さなくなったものをやってみる和助師。さりげなく、傘を水色から桃色に変え、また戻す配慮。
それから、次にやる芸をトランプで選ぶ。最も危険な包丁芸を無理やりセレクトする、その持って行きよう。
この二人に比べたら、他の太神楽師はマジメすぎる。ボンボンブラザース先生は別にして。

披露目も大詰め。
林家正蔵師のために、息子のぽん平さんがあいびきを出す。
この話。配信でも語っていた、権太楼師にグルコサミンを勧められたというもの。
よく似てるモノマネ入り。
おかげさまで、徐々にヒザの痛みはよくなってきたそうで。

落語協会の話。
今日の主役の花いちさんは柳家。
先ほど口上で見たでしょうが、落語協会は柳家ばかり。市馬会長、馬風師、花緑師と。
他にも亡くなった小三治師に、さん喬、権太楼、喬太郎に三三と。落語協会は柳家が動かしてるんです。
本日、「小三治」という名が出たのはここが最初で最後。
柳家以外が、三遊亭、春風亭、橘家に林家です。
だから柳家は、自民党ですね。林家は共産党です。
こんなことを言ってるが、正蔵師も会長になる気満々なのだろうか。

我々林家の、一番偉い人ご存じですかと正蔵師。
聴きながら、あれ、あなたじゃないんですかと思う。
木久扇師匠ですよと正蔵師。そっちの林家かい。
楽しい木久扇師のネタが続いたが、忘れた。

スッと本編へ。
世の中のことはなんでも知ってると偉そうな八っつぁんを、隠居がウソの新聞記事でハメる。
新聞記事である。協会を問わずよく出る前座噺。本物の前座は意外とやらないけど(やってもいいはず)。
これが絶品だった。この日の高座では、市馬会長の「高砂や」と双璧だ。
やはり正蔵師、こんな軽い噺にとても味わいがある。
語り口はリアルなものなのに、語っている中身がとても緩いという。

この日の浅草の客、携帯鳴らしたり歩き回ったり、相変わらずだなと思ういっぽうで、全体的にはちゃんとしているほうだなと思っていた。ここまでは。
だが、「アゲられたよ。天ぷら屋だからね」で、拍手が起きる。ガッカリだ。
古典落語の展開に手を叩かれても困惑するばかり。正蔵師、一瞬地に戻り「中途半端な拍手だね」。
まあ、よく言えば正蔵師の語りにみな引き込まれていて、「なあんだ」と感心したということなんだろうけども。
古典落語の当たり前のフレーズで手を叩いても、その敬意はいったいどこに刺さるというのか。

正蔵師の新聞記事は、情景描写はしっかりやるが、人間の感情は抑えられ気味である。そこがいい。
豆腐屋に行って、覚えたばかりのネタを聴いてもらう八っつぁん。
豆腐屋は呆れ気味だが、不愛想でもないし、忙しいから帰ってくれというのも、一巡聴いてから。聴いていて、つっかかるところがない。
若手だと、それが悪いというのではないけど、いろいろここに盛り込みたがる。豆腐屋もこの話、隠居に聴いてすでに知っているとか。
だがそんな説明がなく、人間関係の対立もなく、実にスムーズに聴ける。

ヒザ前は柳家権太楼師。
マクラは補聴器の話。楽屋仲間の古今亭志ん橋師も出てきた。
補聴器の話をしてるのに、志ん橋師は全然違う応答をしてくる。耳の前に頭の問題ではないかと権太楼師。
それから、正蔵師のサプリの話を引いているのだろう、安い補聴器も売ってるテレビ通販CMの話。
「しゃちょおー、もう少しなんとかなりません?」「わかりました、じゃあ1万円で」「しゃちょおー、すごーい」
権太楼師いわく、「この二人はデキてます」。
夢グループのCMなんてイジってナンボだと思うけど、あそこは落語会も主催してるのだ。だから普通はあんまり揶揄しないんじゃない?
恐れるもののない権太楼師。

権太楼師はおなじみ代書屋だが、ここでまた、寝てしまいました。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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