池袋演芸場26(中・新宿カウボーイの寄席漫才)

三平降板の記事で1日空きました。
国民の一大行事、M-1グランプリもあったけど、今日は漫才つながりで、いったん芸協池袋に戻ります。明日再度中断してM-1に触れようかなと。

仲入りは昔昔亭桃太郎師。
先日高田文夫先生のラジオビバリー昼ズに呼ばれた三遊亭白鳥師、師匠・円丈の訃報直後だったが、「桃太郎師匠はまだ元気ですよ」なんて言ってた。
桃太郎師の高座前に前座さんが、大きな湯飲みを置いていく。
もう「せこい茶碗」ではない。そして別にネタでもなかった。
それにしても、米福師も楽屋のお茶が紙コップであることを振っていたのに、桃ちゃんだけ湯飲みか。
たぶんこれも持参したものなんでしょうな。

桃ちゃんは例によってボヤキ。作ったネタでなく、自分の話のほう。
目がよくないので眼科に行ったら、白内障ではないと言われた。
なんで調子が悪いのか。桃ちゃんいわく、昼席に出ているせいだと思う。生活リズムが狂っちゃって。
最近ずっと、トリ以外では夜席に顔付けしてもらっていた。事務局に頼まれて今席は昼席に入ったのだが、トリじゃないのにこんな早い時間に上がるのは、どうも慣れない。
そういえば、2年前のこの席でも桃ちゃんは夜の仲入りだった。それで私もそこまで聴いたのだ。
言われてみると桃太郎師、昼席には入っていない印象だ。

医者に掛かった話が薄くつながるらしく、本編は「カラオケ病院」。
昨年国立で聴いたが、この師匠に関しては別に何のネタでもいいや。そしてカラオケ病院は、何度聴いても楽しいのだ。
昨年聴いた際、冒頭の「星影のワルツ」と最後の「お久しぶりね」以外の歌を全部替えていて感心したものだ。
師匠・柳昇の十八番だけども、完全に自分の噺になっている。
相変わらず、歌う前の「○番」がテキトーで、平気で間違っている。
一応10曲でセットみたいだけど、予備が数曲あって固定していないんでしょうね。
新たに作った歌の中のハイライトは、「桃太郎おっかけ病」と、手術中の外科医が歌う「月の法善寺横丁」。

歌も大詰めになってから、お客さんがふたり入ってくる。
「あ、今お客さん来たよ。もうサゲになるけどね」と地味にメタな桃ちゃん。
桃ちゃん師匠を聴いてると、人生の悩みなんてどうでもよくなりますね。

仲入り休憩後のクイツキは、色物の出番。
今席は「宮田陽・昇」「おせつときょうた」交互だが、この日だけ予定の代演で新宿カウボーイ。
寄席漫才向きのこのコンビを楽しみにしてきた。しばらく代演で出続け、認められて協会員になるのでしょう。
ギャグを畳みかけてくる芸だから、穏やかな寄席漫才とは方向性がやや違う。それでも緩い空気をまとっていて寄席向きだと思う。
ヒザは当面務まりそうにないけど。この日だって、次の可風師は一瞬やりづらそうだったし。
M-1で優勝した錦鯉と、決戦に残ったインディアンス、この二組を続けて見ても、似ている部分は特にない。
だが、新宿カウボーイはこの両方に似ているから面白い。ボケまくりと、ハゲ頭へのドツキ。

スベっても一切頓着せず、スベり続けているうち客席があったまってくる不思議な芸である。本当にしくじった客は二度と帰ってこないのだから、実に大変なことだ。
冒頭ツカミでスベっておいて、「マイナスからのスタートでーす」と始めるのがお約束。
これは「俺たち、ボケに本気でツッコんだりしないスタイルだからね。コイツが勝手にはしゃいでスベって、その場を毎回リセットする芸なんだから、そのつもりでね」という宣言になっている。
客との間の約束を早めに構築してしまうので、派手めの芸風なのにとても気持ちがくつろぐのである。これが落語の寄席向きということ。

上手から登場する池袋なので、相方の前を横切るギャグがやりやすい。下手から出てくる末広亭の場合、いったん上手にハケてから、戻ってきて横切るはず。

胸ポケットに差しているのはペンでなく、TVのリモコン。
温度計ならまだペンに似てるけど、リモコンにアンテナ付けてペンに模してるのは意味がわからない。とにかく爆笑。
リモコンを客に向けて早送りしたり巻き戻したり、好き放題。

錦鯉やトム・ブラウンと同様、ハゲた頭をピシャリとタイミングよく叩く。一瞬の緊張が、実にいいタイミングでほどけていく。
最初のほうで「なんか今、すごくいい音したな」。
途中でボケのかねきよが、ギャグの区切りでじゃあ失礼しまーすと小走りして袖に引っ込む。
戻ってきて「前座さんびっくりしてたよ。もう降りるのかって」。

持ち時間は15分あったのかな。「長くやれって言われてるんだから」なんてツッコミもあり。
客の気持ちを終盤までそらさず引っ張っていくのはやや大変そうだった。テンション高いままだから大変だ。
でも、そのうちダレ場をちょっと作っておいて最後に再度盛り上げる、器用な舞台が完成するに違いない。
いずれ芸協の寄席に正式デビューするであろう新宿カウボーイ、実に楽しみです。
お年寄りは錦鯉と間違えそうだけど。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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