三遊亭らっ好「つる」
高座がずいぶんと高い。演者を見上げる格好だ。
らっ好さんは、師匠(好太郎)、大師匠(好楽)のマクラ。なにかにつけ楽しそうな一門。
ラッコに似ているのでらっ好と付けてもらったが、二ツ目になっていい名前を付けてもらおうとして大師匠に相談に行くという。
結局、らっ好のままでいる理由は不明。
好楽師に教えてもらう予定だったが、「せがれのほうが上手いから」ということで王楽師に稽古を付けてもらった噺と断り、本編へ。
ご隠居と八っつぁんの楽しい会話。開口一番らしく、軽く前座噺。
円楽党でよく掛かる「十徳」かと思ったら、つるだった。
つるの、デタラメを教えるご隠居にもいろいろなタイプがいる。うろたえる人、なんとなく、流れで嘘をつく羽目になる人。
この隠居は八っつぁんにまったく後ろを見せず、つるのいわれを堂々語る。
といって、隠居がデタラメを話している描写も一切ない。浮世根問タイプの隠居で、意外と珍しい。
そんな隠居は、八っつぁんがしくじって戻ってきても、再度丁寧に嘘を教えてやる。
隅々まで丁寧な一品。らっ好さんは、亀戸の代演で聴いた「子ほめ」が絶品だった。
つるが得意なのもうなずける。
アレンジもあるのだけど、アレンジよりも古典落語に内在する面白さをきちんとすくいあげるのが上手い人だ。
たとえばこの八っつぁん、どうしてつるのいわれを失敗するのかというと、隠居に再度聴きに行った際、「(メスのつるが)次に《るー》と」というところで、わかったわかったと言って隠居の家を去ってしまうのだ。
だから、<「つー」と飛んできて、「る」と止まる>になってしまう。
こうした部分が丁寧。
あと、つるのいわれを聴く友達が、口が悪いキャラなのだが、それと裏腹に全然嫌がるそぶりがない点に、優しさを感じる。
春風亭橋蔵「だくだく」
続けて春風亭橋蔵さんは、連雀亭でお見かけして非常に好感を持った人。
堂々、ブレずに噺を語る。
だが好感を持ったその際にも、噺家にしてはびっくりするほど、笑いのセンスのない人だという印象は強く持った。
これが、ちょっとだけあった不安の理由。
笑いのセンスがないと落語はできないかというと、そんなこともない。
教室で面白いこと一つ言えなかったくせに、どこかで自分を変えてやろうと勘違いして入門し、古典落語で一生懸命ウケを取ろうとして撃沈する痛い噺家にならない限り、問題はない。
幸い、落語にはいろいろなチャンネルが用意されている。落語は笑いだけでできているわけではないのだ。