仲入り後は再度橋蔵さんから。
マクラで、どんな流れから出てきたのか忘れたが、「梶原いろは亭へはどう行ったらいいんでしょうか」というセリフが出てくる。
訊かれたほうが答えて、「あの、演者は一生懸命やってるけどもいまいち客の笑いが少ない寄席ね」というのは結構面白かった。
笑いが少ないのは事実。同じ人数でも、連雀亭のほうがよく笑ってる気がする。
本編は最近よく聴く気がする「犬の目」。
先日春風一刀さんからも聴いた、犬の目を使っていることがネタバレしているタイプ。
先生の名前がヘボン先生の弟子のシャボン先生なので、同じ出どころのようだ。
こちらのほうが、より噺がバカっぽい。
笑いのセンスはないかもしれないが、楽しい古典落語をしっかり楽しく語るセンスには富んだ橋蔵さん。
最後は、患者の様子を深堀りせずに、とんとーんとスピーディにサゲ。
一箇所、「ケン眼」(犬なので)というクスグリがあったが、間違えて「ケンカン」と言ってしまい、客に伝わらない。
別に慌ててる様子にも見えなかったが、内心は慌てていたのか、二度言い直していた。
一度は言い直さないと無責任だけど、言い直したってウケないんだから先に進めばいいのになとちょっと思った。
見た目はどっしりしている人なのだが、内心そこまで落ち着いてはいなくて、ただ顔に出ないんでしょうな。
ここまで三席聴いて、すでに満足。
さらにトリのらっ好さんの「小間物屋政談」は絶品だった。
また、大ネタ持ってるもんだなあ。
大ネタだがテーマがいまひとつよくわからない不思議な噺を、とにかく楽しい空気で語るらっ好さん。
商売のために大坂からやっとこさ帰ってきたら、自分が死んだことになっていて、女房が再婚している。
こんな悲劇もまたとないのだが、悲劇などまったく強調せず、どこまでも楽しい雰囲気が続く。
死んだはずの亭主か、新しい亭主か選ばなくちゃならない女房も、あまり切羽詰まってない。
結局女房、優しくて(しかも前の亭主より「上手い」)新たな亭主を選ぶが、そこに悲劇の陰はみじんもない。
大家と奉行にお前は死ねと言われる小間物屋にも、むしろ喜劇の要素が強い。
らっ好さんが小間物屋政談を掛けるのに、ひとつ課題があった(ものと推測する)。
若いらっ好さんにはまだ、大家からにじみ出てくる年輪は描けない。
ではどうするか。大家は世話焼きなのだが、どこか一本ネジが緩んでいるというキャラにする。
死んだはずの小間物屋が帰宅して、どうしたらいいのかうろたえる女房と新たな亭主を尻目に、大家は非常に落ち着いているのだが、具体的な解決策はちっとも出さない。
この描き方でもって、噺を自分のものにしてしまうらっ好さん。
林家正雀師の小間物屋政談(万両婿)でも、どこかに「前の女房め、見たことか」というムードが漂うのだけど、幸せムード一杯のらっ好さんのこの噺の場合、そんな気配はない。
むしろ、みんな収まるところに収まってよかったねという。
大満足です。
演者二人とも寄席の外までお見送り。橋蔵さんも着物のままだった。
また伺います。
目の前は電車の車庫。構内に咲く紫の花が綺麗でした。
(その1に戻る)