「上方落語をきく会」の笑福亭羽光

忙しくなって更新くじけ気味ですが、ネタが拾えたのでアップしますよ。

radikoでいつも落語を聴いていて、たまにネタも拾う。
東京では「らんまんラジオ寄席」。これは野球のオフだけ。
上方では通年で、「なみはや亭」と「ラジ関寄席」。忘れない限り毎週聴く。
上方のラジオは最大勢力である吉本興業の噺家の登場回数が非常に少ないため、私の認識が結構偏っているのが難点だが、それでもありがたい。
現在どちらかといえば、松竹芸能と米朝事務所が優勢だろうし。

土日のラジオを聴いていたら、気がついた。まだあるじゃないか。
ABCラジオの特番「上方落語をきく会」である。
日曜に生放送で延々8時間流していたものだ。聴取期限が迫っているので、慌てて聴く。

そういえば昨年もそうだった。この会で出た桂南光師の「抜け雀」にいたく感銘を受け、聴取期限が迫る中繰り返して聴き、記事にした。

桂南光「抜け雀」・・・説明過剰落語からの解放

南光師は芸術選奨受賞で、おめでとうございます。

聴き逃しても実際には、待っていればまたなみはや亭で同じ録音が流れるのだけど。
酔っぱらって、楽しかったのに記憶が定かでなかった、林家菊丸「貢ぐ女」もその後再度聴けたし。
それはそれ。

全く知らなかったが今回、東京の上方落語家、笑福亭羽光師も顔付けされている。聴いていたら、いきなりなじみの声が流れてきて驚いた。
羽光師は東京で修業して真打になったのであり、大阪の噺家とはまったくルートが異なる。
しかしながら笑福亭というルーツを持っているので、大阪でも暖かく迎えてもらえるようだ。
東京で笑福亭の枝葉を広げていくのは、もともと松鶴の野望でもあったのだ。
鶴光師が多くの上方落語の弟子を東京で残したわけだが、この中で羽光師は最も売れた人である。

伝統ある大阪の会に、上方落語とはいえ東京の噺家が呼ばれる背景には、昨年NHK新人落語大賞を受賞した桂二葉さんの影響があるかもしれないと思っている。
初めて女流が優勝したということで、この賞の権威が、後日大阪で爆上がりした。
その結果、前年の優勝者羽光師にも改めてスポットライトが当たったのではないかと。

大阪の会で、しかもエロ新作をひっさげて登場の羽光師が見事に受け入れられ、さらに言うなら主役にまでなっていたのが、とても面白かったのである。

といって東京で修業をしてきた羽光師、前に出張るなんていやらしい感性はない。
ゲスト扱いの高座でもって、悪目立ちしようなんて意識はかけらも持っていないだろう。ただ、自分にできることをやる。
結果、最速で客にもアジャストするのだ。緊張もすると思うけど。
高槻での中学生生活を描く羽光師、大阪の客からすると、とても上方っぽい噺家として映るのではないか。
東京の高座では、別にそうでもない気がする。上方よりも新作の要素が強く出ていると思う。
師のハイブリッドな魅力をひとつ発見した気がする。

私が聴きにいった東村山の高座でもそうだったが、エロ新作やっていてお客さんと目が合うととても恥ずかしい。
なので照明を暗くさせてくださいと。

羽光師の落語は、私は純文学だと思っている。まあ、今回のはやや小品であり、楽しい新作。
「月の光」という、タイトルが付いている。もちろんドビュッシーとは関係なく。
今はなき、エロ本自動販売機を巡る作品。主人公はもちろん、笑福亭羽光の少年時代、エロなことしか考えていない中村好夫。
いつもつるんでいる仲間ふたりが、エロ本をタダで手に入れる方法を考える。
こっそり買いにくる小学生を脅かして、逃げていくところで本だけゲットしようというのだ。
二人が行ってみると、自販機の前で迷っている知り合いがいる。変装しているがマルバレで、誘ったのにその日だけついてこなかった、中村である。

中村は、悩んだ末に3のボタンを押したのに、4のボタンの「ぽっちゃり熟女のエキサイティングハリケーン」が出てくる。
この先笑福亭の先輩、鉄瓶師も松喬師も、「ぽっちゃり熟女のエキサイティングハリケーン」のフレーズを多用していて笑ってしまった。よほどお気に召したらしい。

いつも書いていることだが、新作落語は東西で作り方がちょっと違う。あくまでも傾向であるが。
東の新作は「飛躍」を大変重視する。いっぽう上方新作は、日常に足をつけて、飛躍しないものも多い。
上方新作落語は、漫才の影響が強いのかなと思っている。
私は飛躍の多いほうが好き。

羽光師の新作は、東京育ちだけあって飛躍がある。
エロ本自販機を巡る新作など、日常生活に密着していそうなのだが、ちゃんと飛躍してくる。
1か月分の小遣いが、マニアックなエロ本になってしまったが、あきらめかけている中村に対し、「間違えた本は取り換えてもらうのが正義だ」となぜか熱い友達。

実は決してエロ落語ではない。
エロは題材だけで、立派な青春グラフィティになっているのであった。
また羽光師が好きになった。上方のラジオで聴けて非常に得した感じだ。

今日はここでいったん締めるのだが、まだ書きたいことがいろいろ出てきそう。

続編です。

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。