「上方落語をきく会」の笑福亭羽光(続)

 

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radikoで聴いた「上方落語をきく会」。
もはや再聴もできないので記憶ベースでもう1日続けるつもりだったが、思わぬところで羽光師の続きができた。
これを先に。

同じABCでやっている「伊藤史隆のラジオノオト」。
この帯番組で、水曜日のレギュラー、笑福亭松喬師とともにまた羽光師の話が出ていた。実に面白かったのでこれを。

ちなみにこの日の番組全体のテーマは「ジェネレーションギャップ」について。
「色事根問」(稽古屋の前半)を末弟の喬路さんに稽古する松喬師。
いい女を例える「吉永小百合」のくだりを、これはもう古いから、自分で替えなさいと指示する。
これ自体は稽古によくある話だが、若い喬路さんはそもそも「よしながさよりって誰ですか」。魚やないねん。
でも「研ナオコ」は知ってる。「ゆでたまごー」とかで。

そして松喬師、桂文福師と相撲噺の会をやったばかりだという。
文福師、高座でもって「昔の歌手はよかったですな。バタやんとか東海林太郎とか。今の歌手はなんでんねん、キロロとか」。
松喬師、「キロロってもう20年前にデビューしてまっせ」。あとで指摘されて、赤面する先輩の文福師。
4年前黒門亭で、林家種平師の「ぼやき酒屋」を聴いたとき、「オレンジレンジ」を「小林稔侍」でボケていてずっこけたのを思い出した。
噺家のみなさん、そのネタもう賞味期限が切れてますよ。ブラッシュアップしてください。

さて「上方落語をきく会」の振り返り。
本放送でも繰り返し語っていたが、やはりあの昼の部は、羽光に全部持っていかれたなと松喬師。これが中トリ、南天師と共通の認識。
昨日書いたとおり、松喬師の「お文さん」はすばらしいのに、後輩を立てるところが偉い人。

ところで松喬師は、表面に映し出されている「エロ本」に惹かれたわけでもないという。これは私と同様の感想。
本放送時と同様、「ぽっちゃり熟女のエキサイティングハリケーン」を繰り返し、楽しいフレーズとして取り上げているのにもかかわらず。

松喬師が惹かれた部分は、「寿限無」のような繰り返しの見事さ、そしてサゲのドンデン。
もうひとつ噺のテーマを感じた松喬師は、電話で羽光師に訊いてみた。「コンセプトは『正義』にあるのか。正義を貫くことにあるのか」。
正義とは、間違ったエロ本を取り換えにいくことなのであるが。
羽光師に言わせると、そこまで考えたわけではない。
あれは暗い、つらい青春時代を振り返り、昇華して生まれた落語なのだ。
両親が教師で厳格に育てられ、しかも妹は勉強ができた。いじめにも合い、悶々とした日々を過ごした。
しかも「自分磨き」(オードリー春日の表現)を見つかって軽蔑されたり。
芸人になっても、マンガ原作者になっても、どちらも鳴かず飛ばず。ようやく35歳で噺家になった。
「ぼくみたいな中途半端な人間でも、生きてたら楽しいですよ。大人になれば笑って暮らせるんです」というメッセージを落語に込めているのだ。

松喬師の解釈だが、ヘンな正義感に満ちてエロ本を替えてこいと主張する友達は、本当はジャイアン気質のいじめっ子ではなかったのかと。
そうかもしれない。
そして松喬師の感じた「正義を貫く」というコンセプトも、羽光師は否定するが、噺のベースには入っているのではないかと。

全部まとめて松喬師が整理をしてくれた。
私が羽光師に惹かれる部分もあらためてよくわかった。
「自虐」なんて単純なものではない。巨大なパワーをフル活用しないと、つらい時代を笑いに変えることはできないのだ。
そうやってようやく、羽光師自身も救われているのだ。

松喬師にも、羽光師の生い立ちに共感する部分がある。
松喬師も噺家になりたいと親に言ったとき、「姉の縁談にさわるような職業はやめてくれ」と言われた。
だいたいきょうだいでも、デキの悪いほうが噺家になるんだって。

以下は松喬師が語ったわけではなく、私の感想。
羽光師の落語への取り組みは、成金に共通しているなと思った。
小痴楽、宮治、鯉八、A太郎などもそうで、つらい体験を笑い飛ばす土壌が共通している。
羽光さんが落語界で、ムダに厳しい師匠の下変な育ち方をしていたら、ますますひねくれてしまっただけだろう。そんな人だって多数いるのだ。
そして、春風亭昇吉師が同世代のはみ出しっ子である理由もよくわかった。
昇吉は、自分のどろどろした澱を表に出すことができない。ずっとカッコつけて生きている。
実際には、東大に入りなおすあたり、かなりのコンプレックスを抱えて育ってきたはずなのに。その暗い部分を隠し、東大ブランドだけ活かそうとしている。
結果客との接点がなく、噺も薄っぺらいわけだなと。

作成者: でっち定吉

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