落語には、サゲより大事な「いただき」がある(中・廓噺で検証)

サゲについてよく書いている理由がひとつある。
「落語においてサゲは最重要ではない」ことを証明したいのだ。
常にそう考えていたら自然と、「サゲより重要なもの」の存在が浮かび上がってきたのだ。それが「いただき」(頂き)である。
さまざまな物語における「クライマックス」シーンとご理解いただけばいい。
サゲと一致する場合もあるが、一般の人が落語に抱くイメージとは異なり、一致しないことのほうがずっと多い。
そのひっそりした重要部分にスポットを当てる試み。

かつて自分で行ったオリジナル分類において、落語において最も数が多いのは「適当サゲ」だという結論を出した。
本当に適当に作った、噺を終わらせるためのサゲは、「とたん落ち」だの、枝雀のように「へん」だの分類してもあまり意味がない。
だが、そういった適当サゲにも、ちゃんとした「いただき」が付いている、その事実を早速発見している。
だからこそサゲのテキトーさが、噺の完成度を損なわないのだ。

お見立て

廓噺にこだわるわけでもないが、流れ的に今度は「お見立て」のサゲといただきを見てみる。
サゲは「(墓が)ずらーっと並んでおりますので、どれでもよろしいのをお見立て願います」。

  • 既存の分類では「間抜け落ち」(私の想定する新分類では「シャレ落ち」)。
  • 枝雀分類では「合わせ」。
  • 私のオリジナル分類では「伏線回収サゲ」。

デキの悪いサゲではないが、決して噺の肝ではない。
初めて聴く人が、あれ、サゲなんだっけと忘れてしまって、全然構わない内容。
廓のない現代ではわかりにくいので、墓参りに向かう際に若い衆の喜助が、杢兵衛大尽に「お見立て」を仕込むことが多い。

お見立ての「いただき」は、サゲの直前にある。
テキトー花魁の喜瀬川に振り回され続けた喜助、ついに杢兵衛大尽と引率して、ありもしない墓参りにやってくる。
なにせ墓なんかないのだから、線香を多めに焚いて戒名を読まれないようにする。
だが墓は、軍人や子供のもの。
この「違う墓」がいただき。
「花魁病気」「花魁死んじゃった」とウソをつき続けて、展開がピークとなった最後のウソがこれ。

三枚起請

行きがかり上、廓噺で続けてみる。深い意味はない。

「カラスを殺してどうするんだ」「朝寝がしたい」というのがサゲ。
「三千世界のからすを殺し ぬしと朝寝がしてみたい」の都々逸を知っている客ばかりではないから仕込みが必要だが、仕込みがないと成り立たない噺ではないので、仕込み落ちとはいえまい。

  • 既存の分類では、とたん落ち(私の想定する新分類では「シャレ落ち」)。
  • 枝雀分類では、「合わせ」。
  • 私のオリジナル分類では「粋なサゲ マイナー」。

実に粋なサゲで、ストンと落ちるから気持ちいい。面白くはないのだけど。

この噺のいただきは、1対1だと思っている花魁の前に、押し入れとついたての裏から、後の二人の男が次々出てくるシーン。
「三人勢揃い」。
これこそが真のクライマックスなのだが、サゲをどれだけつついてもこの面白さは出てこないのである。
だが逆に、このいただきからどう噺を終わらせるか考えたとき、このサゲは最適なつながりを持つのである。
サゲといただきとで、どちらが本当に重要なのか、一目瞭然ではないでしょうか。

辰巳の辻占

辰巳の辻占のサゲはよくできている。
「久しぶりたあどういうことだ」「だって娑婆で会ったきりじゃないか」。
特に上方落語の辻占茶屋でこれ以外に豊富なサゲのバリエーションがあるが、いずれもよくできている。

  • 既存の分類だと、とたん落ち。
  • 枝雀分類では、「へん」。
  • 私のオリジナル分類では「粋なサゲ マイナー」。

こういう噺を聴くとサゲの重要性が改めて知れる。
だが実は、バリエーションがあるのを見てもわかる通り、このサゲが必要不可欠というわけではない。
その証拠に、このラストシーンは、非常にあっさり描写される。直前のシーンからアッという間に茶屋に戻っている。
よくできたサゲであっても、やはり重要なのはその前。
もちろん、男と女が心中しようとするシーン。「心中試し」。

女はとっとと男を飛び込ませて終わりにしたい。男はアホなので、止める間がない。
偽装とはいえ自殺である。これをふんわり着地されるために、サゲ付近の手短なシーンが設けられている。

明日で終えるつもりの、この続き物の着地点をどうしようか。
新たな噺を引っ張ってきて今日と同じでは芸がない。例も挙げるが、もう少し深掘りしてみたい。
続きます。

(2023/3/3追記)

この「中」の記事のアクセスがあまりにも少ないのでいったんここで締めておりました。
1年経って、「下」に続きます

 

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. いつも楽しく拝見しております。
    さげといたがきの話、途中で終わっちゃうのね。残念。
    と、思いつつも相当な数の噺を聞いてないと演目で分類されても判らない部分が多いですしね(自分も含めて)。さらに、演者によってさげも違ったりするし・・・まぁそこが楽しみの一つでもありますが。
    やっぱり人気になるブログネタは業界ゴシップなんでしょうかね?私も好きですがw
    また機会を改めての落語学会分類学発表を楽しみにお待ちしております。

    1. まるかんさん、ありがとうございます。
      続きが書けているなら出すのですが、あまりの離脱者の多さに、もはや執筆意欲を失ってしまいまして。
      いずれ完結させたいなとは思っていますが。

      世間から、批判記事だけ着目されるのもちょっとねと思います。
      まあ、アクセス増やすために無理に批判してるわけでもないので、これも続けますけども。

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