立川笑二月例独演会(下・札所の霊験)

事前の告知で「怪談噺を含む2席ネタ卸し」とあるので、仲入り休憩後の一席は怪談噺であり、かつネタおろしであることは確定している。
笑二さんはいつも黒紋付だが、着物は着替えていた。前半は鼠色であり、後半は黒。
さすがにもう、マクラはない。

寺男がふたり、会話する場面から始まる。
越してきて荒物屋をやっている夫婦の、女のほうはこの田舎(高岡)には珍しいいい女だ。
あれはきっと、元は殿さまの妾だ。
男のほうは侍には見えないので、たぶん出入りの小間物屋かなにかだ。お妾とできてしまい、手に手を取って逃げてきたのだろうと。
あの女の足の裏舐めたいという寺男A。
時代ものにフェチを持ち込んだ、ぶっ飛んだギャグだと理解したら、なんと伏線だった。すげえ。

怪談噺だが、出だしは田舎が舞台の滑稽噺のそれである。蒟蒻問答みたいな。
このふたりの会話の構造は、幕前芝居と考えればいいようだ。
ふたりがハケると緞帳が上がり、和尚と亭主、亭主と女房と、二幕あった後でまた閉じた緞帳の前で、ふたりの芝居が繰り返される。
だが、物語が進むにつれ、噺に笑いのスパイスを与えていた彼らの会話が変質してくる。
芝居の最後も、このふたりである。
そして、思わぬ仕掛けが施されている。

和尚のセリフをちゃんと理解しないままでいたら、展開のわかりにくいところがあったはず。
でも笑二さんは、実にさりげなくしっかり語っている。だから客を取り残したりしない。
これでついていけなければ、寝ているということ。

和尚に呼び出される亭主。
和尚は言う。お前さんの荒物屋に客が来ないのは、素性が知れないからだ。よかったら、どういういわれで高岡に来たのか教えてほしい。
亭主は語る。二度火事を出してしまい、江戸にいられなくなったのだ。二度目はもらい火ではあったが。
家内は奉公人だと。

和尚は、わしから村人に話しておいてやる。
そして、繕い物が多数あるので、奥さんを寺に寄越して欲しいと言って前金を渡す。
和尚は生臭で、夏は「暑くて飲まずにはいられない」とずっと酒を飲んでいる。檀家からのもらい物。地元の水で仕込んだいい酒。
季節が過ぎて冬になると、「高岡の冬は厳しい。燗でやらないと過ごせない」とやっぱり飲んでいる。
飲まずにいられない和尚。

実は和尚、江戸にいた女の正体を知っている。
亭主は、一緒に江戸から逃れてきたというのに、もう女に飽き気味。モラハラの限りを尽くしている。
女房は不審なものを感じるが、亭主は生臭坊主のもとへ、これ幸いと送り出す。

因縁を巡る噺であり、圓朝ものだということは想像がついたが、まったく知らない噺。
寄席の下の階(2階)に貼られた演題一覧には、「札所の霊験」とある。名前だけ聞いたことがある噺だが、「ああそうか」とは思わない。
後であらすじを調べてみると、まるで違う。

大枠だけ借りてきて、連続ものではなく独立した一席ものとして笑二さんが仕立て直したようである。
ふたりの寺男も、創作じゃないかな。
しかし、和尚の暗い血塗られた過去はこの噺の中で劇的に描かれる。

書きたいことは無数にあるのだが、マイナーな噺であるがゆえに、ネタバレを自粛するとなにも書けないな。
ともかく、ピカレスクな魅力がたまらない。
過去も含め、何人も死んでいく噺である。
しかし好き好んで殺しているわけではない。まさに因縁としかいいようがない。

最後まで迫真のすばらしい一席でありました。
こんなものを語れるのだな。もう、後ろを見せず堂々と語る。さまざまな情念が高座から噴き出してくるが、自分で好きな感情を選べばいい。
私にとっては人情噺として響いてきた。
いわゆる人情はなにもないけれど。

笑二さん、実に守備範囲の広い人である。
落語協会所属だったら、もっともっと評判になっているだろうに。そう思う。
別に立川流所属を残念に思っているわけじゃなくて、所属団体問わず私もちゃんと聴かないとねという反省込み。

夜席なのが難点だが、また来たいものです。

今日は更新遅くなりすみません。明日あたり、久々に休むかもしれません。

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作成者: でっち定吉

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1件のコメント

  1. ぴーたん様。
    せっかく投稿していただいたのですが、新たに導入したスパムコメントチェッカーに引っかかってしまっていました。
    理由は不明です。
    コメントありがとうございます。サルベージして掲載させていただきます。

    名前:ぴーたん
    内容:好きな落語家さんが論理立てて褒められるとうれしいものですね。ありがとうございます。
    「札所の霊験」は定吉さんとまったく同じ感想です。もう本筋には戻れない一席になってますよ

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