国立演芸場21(上・三遊亭小遊三「たいこ腹」前編)

月の半ばなのに、今月早くも5席目である。ちょっとオーバーペース。
国立演芸場はさよなら公演中。上席(林家正蔵)にも出かけたのだが、下席にも。
この小遊三師匠の芝居は3年連続で参加している。
噺家の中で小遊三師匠が一番好きだという、高校生の息子を連れてくことにした。

一昨年と昨年は「船徳」であった。
私の落語観に多大な影響を与えた見事な高座であった。船徳からは「災難を楽しむ」という、ある種の人生訓まで勝手に汲み取ったりなんかして。
今年は別のが聴きたいが、まあ被っちゃったら仕方ないなと。
そして、3年連続で仲入り後からの参加である。3割引きで1,540円。
息子は学割で1,500円。

ほどよい空席の国立演芸場。
小遊三師の芝居は、コロナ前なら満員もあったはず。まだ客は戻り切ってはいない。
「桃組」が芸協にも影響を与えているのか、女性芸人の多い番組である。
遊三一門に女性が増えたということもある。仲入り後も、いきなり女性がふたり。

幕が開くと、桂右團治師が板つきで登壇していて、頭を下げる。ヒザが悪いのかな。退場時は普通に歩いてたけど。
この芝居ではクイツキを務めている。

私はやきもちが得意です。お餅を焼くのはタイミングが重要で、難しいんですよ。
でも魚を焼くとだいたい失敗します。

悋気のマクラから、権助魚。
お昼のパスタ大盛が利いてきて、ほぼ寝てしまいました。
右團治師は初めてだったのですが。
メガネを掛けるんだなと。浅草お茶の間寄席に出ていたときはメガネはなかった。

ヒザ前は本来、神田紅先生だが、この金曜日のみ出番の入れ替えで、二ツ目の三遊亭あら馬さんが登場。
この人も初めてだが、ちょっと楽しみにしていた。
ヨネスケちゃんねるでもって春風亭昇吉を堂々批判する、すごい人。
鏡味美千代さんとやってるチャンネルもたまに観てる。

肝臓移植のおかげで生きているという話と、PTA会長のマクラ。PTA関係ではテレビにも出た。
肝臓はすごいですね、弟から一部もらっただけなんですけど、数か月で1人前のサイズに成長するんですよ。
着物は歌丸師匠のものだそうで。

演目は紙入れ。
落語界でひとりだけだろう、浮気をするかみさんになりきって演ずる人は。
熱演でときどき裾がはだけて、「すみませんね」と言って直すのはサービスか。
キャラが強く熟女の色気で面白いのだけど、本編が進むに連れ、だんだん尻すぼみなのであった。
ただ、おかみさんが懐から新吉の紙入れ(手拭い)を、一瞬だけ見せるのはすごい。

ヒザはコントD51。
いつもの婆さんと警察のネタ1本で爆笑。
「若い人はいません」と客席を見渡す二人。息子に着目されるかなと思ったが、いないことにされる。
ネタだからそりゃそうだ。
話の進行は重要ではない。この日は途中が盛り上がったようで、オレオレ詐欺の結末にたどり着かなかった気がする。
時間を見て切り上げる、器用なコント。

ここまで高校生向きの番組とは言えなかったかもしれないが、トリの小遊三師登場。
「たっぷり」と声が飛ぶ。
高校生で小遊三ファンのうちの息子、笑点をずっと観ているようなヤツを連想するかもしれないが、そうでもない。
あくまでも、本格派の落語を魅せる高座の小遊三師が好きなようだ。
なかなかいいセンスだと思うのだ。人気者とはいえ、すんなりたどり着く芸でもないだろう。
いろいろ聴いてる上での小遊三師なのである。

「あたしゃたっぷりって言葉が一番嫌いで」。
笑点だったら、トイレ行きたいからとでも言うんだろうが、寄席のトリではあまり笑点ネタは出さない。独演会だと触れる。

噺家は呑気な商売だというマクラ。
お前らの仕事なんて15分だろう、いいよな。なに言ってる、13分だ。
おなじみのマクラが実に耳に心地いい。

たいこ持ちっていう芸人がいまして。
おや、本編は鰻の幇間かな。時期的にはいい頃じゃないか。
たいこ持ちネタでおなじみの、旦那の言葉になんでも合わせるマクラが本当に気持ちいい。
どんな達人でも、小遊三師に比べたら義務的に振ってるような気がするではないか。
やはりこんな小噺でも、幇間の了見というものがしっかり漂うからだと思うのだ。そして、旦那の了見も実は描いている。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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