用賀・眞福寺落語会3(上・柳家権之助「お菊の皿」)

連休の間は死んだふりで仕事をコツコツ。決してはかどったわけでもないが。
連休最後の日の楽しみは、用賀の眞福寺。無料の落語会である(要ご浄財)。
年2~3回開催している。

この眞福寺落語会は、開催日がおおむね雑司が谷「拝鈍亭」とカブる。
昨年は拝鈍亭で、柳亭こみち・宮田陽昇を聴いた。こみち師は、両方の会を掛け持ちしていた。
今年も両方の会があるのだが、客のはしごは時間的に難しい。
柳家小ふねさんを聴きたいので、用賀を選んだ次第。

昨年9月の会にも来た。文治師との二人会。
そのときも雨で今日も強い雨。雨でも私はあまり気にせず出かけるが、続けてずぶ濡れ。
お客はつ離れはしている。
こんな楽しい会(しかも無料)が、都内の片隅でひっそり開催されているのだ。
前座の入船亭辰ぢろさんが受付をしていた。
お目当ての小ふねさんも、なんだか会場をうろうろしている。

真田小僧辰ぢろ
お菊の皿権之助
鮑のし小ふね
(仲入り)
粗忽長屋小ふね
らくだ権之助

 

時間になると辰ぢろさんが高座に上がる。
この人ははや5度目の遭遇で、なかなか多い。

台風のような雨の中、ご来場ありがとうございます。
今日はまず私が一席やりまして、その後権之助師匠です。
それから小ふねアニさん、仲入り休憩をはさんで小ふねアニさん、そして権之助師匠、最後に私です。嘘ですよ。

シャレをかましておいて、小児は白き糸のごとしと真田小僧。
どんな噺もハネずにじっくり進める人。前座修業における計画性が読み解ける。
ちょっとした工夫をするのがこの人らしい。「命くれとは言わねえ」ではなく「土地くれとは言わねえ」だった。
もっと口の回る人だと思うが、今回はちょっとたどたどしい。
真田小僧というのは、子ほめなどと違い、前座さんがすぐに覚えるネタじゃないんでしょうね。

続いて権之助師。
このところ、年1回のペースで遭遇している。
長講2席をちゃんと楽しませてくれる、得難い人です。
雨男なんですみませんとのこと。嵐を呼ぶ男と呼ばれています。

昨年はこの落語会、小ふねさんがまだ「り助」で前座でした。その後すぐに二ツ目になりました。
先ほど辰ぢろさん、最後に自分で一席やろうなんて言ってましたね。調子乗ってますね。
小ふねさんは、優秀な前座でしたよ。権太楼、さん喬一門では引っ張りだこでね。
私がウケて袖に帰ってくると、「師匠、面白かったです。今度教えてください」とこう来るんです。
ウケないときは、「お疲れさました」。わかりやすい人です。

小ふねさんは今日も早めに着替えている。しかも黒紋付。
なんでも一張羅だそうで。他の着物は二ツ目になった際に後輩にやってしまったそうですよ。
一着だけじゃ困るでしょと訊くと、お客さんがかわいそうだと言って着物を作ってくれたそうです。

ここから「お客さんにものをもらう」話へ。
北海道のセイコーマートの豆パンがすごくおいしいといつも喋っていたら、なんと北海道での仕事の際に、セイコーマートの社長名義で大量の豆パンが届く。
楽屋でさん喬師がやんわり批判する。あんまりお客さんにおねだりするものじゃないよと。
さん喬師高座に上り、「豆パンもいいですが、私は車が好きですね。メルセデス・ベンツが」。

先日、橘家圓太郎師から具体的な中身なくして、さん喬師の嫌みな評判を聴いたのがリンクして面白かった。
なるほどと。
ちなみにこの会は師匠・権太楼のかばん持ちで行ったので、高座に上る予定はなかったが、急遽出してもらって「セイコーマートの豆パンがいかに旨いか」を語ったそうな。

それにしても権之助師、こんなにくねくねしながら喋る人だったっけ?
アクションはもともと大きかった印象だけど、マクラから体を揺すっている。
爆笑落語を追求しているのだろうと。まだ若手なんだからいろいろやってみないとということだろう。

昔の怪談噺。執念妄念残念とくれば、お菊の皿。
「関西弁の幽霊は似合わない」のほかに、千葉の幽霊も似合わないというのが入る。
もうそんな季節か。この人のお菊の皿はずいぶん以前に聴いたことがある。

お菊の皿は、季節ものとはいえ、毎年何度も繰り返し聴く噺。
その割には飽きない。
ただたまに、「あんたそれ、6枚数えてからでは絶対に逃げられませんぜ」と先に気になってしまうものもある。それだけ気を付けられたい。
変なリアルを追求するとそうなってしまうようだ。権之助師は冗談感が強いので大丈夫。

昨秋、権之助師からここ眞福寺で「幽霊の辻」を聴いた。
その一席と、今回のお菊の皿がリンクした。
権之助師は、「恐怖」という感情に徹底して迫る人なのだ。そういえば、ホラーものが好きだと以前マクラで聴いた。
幽霊の辻はまさに恐怖を扱った新作落語だが、お菊の皿にも恐怖を描く場面がある。
幽霊が怖いのだが、仲間外れにされるのも嫌で仕方なく出向く気弱な男。
帰りたかったら帰ってもいいけど、幽霊ってのは一番弱い奴を狙うんだぜ、カプって。
じゃあ、俺の周り囲んでくれ。上が開いてるぜ。上からカプって。
最も弱い男に焦点を当て、そいつを利用して「恐怖」を描き出すのである。
ちなみに、この後の「らくだ」もやはりそうでした。

恐怖の描き方に気づき、がぜん楽しくなりました。
恐怖をたっぷり描いておいて、この要素は噺からたちまち消え去り、あとはナンセンスが支配する。

続きます。

 
 

七段目/お菊の皿

作成者: でっち定吉

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