水曜日のダウンタウン「相方の生き死にのネタ」その他

水曜日のダウンタウンは面白いがしかし不謹慎すぎる。今どき不謹慎ギリギリを攻める姿勢には感心するけれど。
もっとも「ギリギリを攻めている」姿勢を免罪符にして、割と平気で不謹慎の側に墜ちることしばしば。
そこまで覚悟してやってるとなると、これもあざといなと。

そんな昨日の番組で、予想外にも落語のために使っている脳が活動し出し、驚いた。

ウソ企画で泊りの仕事を入れる。
そしてマネジャーから、「相方が急に倒れ、意識不明。命の危険があるかもしれない」と伝える。
その反応をウォッチする。相方が倒れた状況で、メシを食うのか、寝るのかという検証。
ウォッチしやすいようにウソの仕事を入れて泊まらせるというのが、なんともすごい。

大事なパートナーに命の危機があるとして、私だったら普通に腹は減るなと思った。
実際、ナダルやクロちゃん、我が家杉山は完食していた。
もっともモグライダーともしげは、食欲もなくなるほど落ち込んでいた。
ともしげの株爆上がり。

ともかく、番組観ながら落語の大御所のエピソードを思い出したのだった。

上方落語の伝説・桂米朝は友の訃報を聞いて「サイコロステーキ」を注文した意外すぎる理由 (週刊現代)

ホテルのバーでくつろぐ米朝に、兄弟子の訃報が伝えられる。
しっかりショックを受けつつ、「サイコロステーキ」を頼む米朝。
悲しみやショックと、空腹は別の話だ。
人の訃報自体は楽しくなくても、こうやって反応をいつまでも楽しめることはできる、そんなエピソード。

多くの人がこの番組企画を、複雑な思いで見た様子。
一言で言い表すと、こう。
「人の生き死にをネタにするんじゃないよ」

その場にいない人間の生き死にを題材に、目の前の男をからかう噺がある。
阿弥陀池。東京では「新聞記事」。
不謹慎だから嫌いな人もいるらしい。わかるわかる。
わかるけども、阿弥陀池も新聞記事も、面白いからよく掛けられている。

新聞記事では、お前の友達の竹が昨日死んだよと、八っつぁんに隠居が語る。
強盗に襲われたんだよ。なまじ腕に覚えがあるので泥棒をねじ伏せようとして、逆にブスっとやられた。
でも捕まったそうだよ。天ぷら屋だけにアゲられた。

どう考えても不謹慎なので、演者は必ずなにかしらの工夫を施している。
落語の客が、八っつぁんの追悼感情に入り込んでしまうと、耐えられないことになる。
いや、落語とは日ごろ、そういう共感をモットーとするものなのであり、それは当然なのだ。
新聞記事は、「人をからかうネタ」には共感してもらわなければならず、人の生き死にについては立ち入らないようにしなければならないという、大変困難な噺なのだ。
なぜか前座もやるけれど。
この点春風亭一之輔師がすごいのは、いったん八っつぁんに徹底的に嘆かせること。八っつぁんが人間の通常の感情を超えて嘆くことで、噺の不安定さを逆手に取り、全体を救うのだ。

春風亭一之輔「新聞記事」

もっとわかりやすい工夫がある。隠居が不謹慎な話をしている事実を、前面に出してしまうこと。
隠居はつまり、水曜日のダウンタウンなのだ。
不謹慎さを隠さないことで、不謹慎の中にあるしっかりした面白さを描くことができるようになる。

この役目を番組で担っていたのが、ゲストのホラン千秋だった。ああ、ここが切り取られたかと。なるほどね。

ホラン千秋が有能「水ダウ」炎上危機をフォロー やりすぎ説に「苦言」挟み見事コメント ネット「すげえ」「流石」 (デイリースポーツ)

まさに「人の生き死にをネタにしちゃいけない」という正論を、自然に語りつつ番組に寄り添うという神業。
ホラン千秋に賞賛の声が大きいのもうなずける。

しかし不謹慎だ不謹慎だとみんな言いながら楽しんでるんだよな。私の場合、息子がテレビ点けてるというのが言い訳になるけれど。

 
 
違う話を1本。

林家源平師匠から、感謝のお言葉をいただいた。
プロも読んでるでっち定吉ブログ。
まあ、今や二ツ目さんをはじめ、結構読まれてると思うんですけどね。
SNS嫌いの喬太郎師は読んでないと思うが。

黒門亭でお見掛けした林家源平師について1日使って書いた内容を気に入っていただいたようだ。
私としても、「棒読み」を積極的にプラスとして取り上げた記事である。
反応いただいて私も嬉しい。
一日使って特集してもいいぐらいだが、それもいやらしいのでこんな形でひっそりと。
なお、「試し酒」は先代小さんに教わったそうです。

新聞記事収録

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。