KITTEグランシェ落語会3(下・桂竹千代「千早ふる」唐揚げレモン編)

人間国宝誕生のニュースで一日空きました。

桂竹千代さん、楽しいマクラから、千早ふるへ。
昨年神田連雀亭で聴いた、「竜田川」の中身を変えたバージョンである。
「竜田川とは、竜田揚げの皮のことだ」というフレーズが出るまで、前回の強烈な印象はすっかり忘れていた。
なにしろ記憶が引き出しから出てくる前に、目の前のライブ高座が楽しく、そこから目が離せない。
いつも高座を眺めながらいろんなことを考えている私が、釘付けだったものな。これ自体、なかなか得難い体験ではある。
ちなみに、「竹千代さんの千早ふるは隠居でなくて先生である」という、やや珍しめの事実すら、前回の記憶を蘇らせなかった。つまり、記憶の引き出しに手を掛ける暇がなかったのだった。
先生でやっているのは柳家小せん師。あと、手紙無筆のようにアニイでやる人もいる。

知ったかぶりなのだがまったく後ろを見せない先生に、爆笑の渦。
千早ふるの一般論としてはむしろ、「一生懸命考える隠居」がおかしいところだが、この先生はなにしろ一瞬たりとも引かない。
談志の「やかん」を思い出した。
昔のいい男がいますね。ああ、いるよ。
なんて名前でしたっけね。名前なんか、そこらの子供でも知ってるよ。
本当にご存じなんですか。この間飲みに行ったよ。

ただ八っつぁんのほうも、最後のほうはもう、特にきっかけなくして先生のインチキ振りを見抜いている。
だから「とは」についてはうるさい。

竜田揚げの皮に、すぐにレモンを振ってしまう人(夫の部下)がいる。
妻の千早は、夫がレモン嫌いなので一生懸命机の下で、レモンを振って落としている。
千早の妹の神代は手伝ってくれない。

千早ふるのパロディ、あるいは改作というのは繰り返し作られているが、竹千代さんのものが一番面白い。
なんなら、本家より面白い。
千早ふるの、「アドリブで物語をまるまるこしらえてしまう」という構造を完全に守っているからだ。あとは、ウソ噺がどれだけ楽しいかで創作の価値が決まる。

「とは」だけなんだったか忘れちゃった。前回と変わってたかもしれない。
いい加減ウソ噺に気づいてる八っつぁんが、「今うまいこと言ってやったって顔したでしょ」と先生を詰めていた。

ヘンな身振り手振りで和歌を解説、というくだりも前回はなかった気がする。
ヘンな身振り手振りというと、竹千代さんから聴いた「唖の釣り」の所作が面白かった。そういえば、あれも「笑い」要素が非常に強かったな。
なのだが、「爆笑派」という肩書を与えるとちょっと違う気がする。やはり古典落語の達人なんである。

これでちょうど30分ほどだった。時計がないので客に尋ね、では次は新作をやりますかと。
新作落語「サオリ9号」の前に振ったマクラがまた爆笑。
一度聴いたことがあったのだが、その際も「サオリ9号」の前に振っていた。落語の中身とはどう考えても関係ないんだけども。
二度同じことを書くのもなんなので、リンクを張っておく。

神田連雀亭ワンコイン寄席37(下・桂竹千代「サオリ9号」)

コロナの最中、だがちょっとだけ緩和された時季に全国ツアーを敢行する竹千代さん。
しばらく喋っていなかったもので、忙しいツアーで頭が混乱し、和倉温泉でもってあり得ない失敗をするという話。

よくできた話は、「すべらない話」と同様、何度聴いても楽しい。
そして何よりも強い点は、オチ重視ではないということ。
他人のパンツを履いてしまうというあり得ない失敗をするその状況と、どう取り返そうかが笑いを呼ぶのだ。
バンツだけにチン事件。

そしてサオリ9号もまたスケールアップ。
サオリにプロポーズして振られた男が、指輪を活用するためサオリを付き合おうと考えるバカ落語。
二度聴いているのだけど、竹千代さんの古典落語に比べそれほど面白いとは思っていなかった。浅草ではウケてなかったし。
あり得ない男を描く以上、噺の設定が破綻していても仕方ない。
だが今回、破綻しているはずの設定がグイグイこちらに迫ってきた。要は古典と同様、堂々と語ればいいということらしい。
「そんな奴いないよ」のはずが、急にリアリティを持ってくるではないか。
そして男が見つけたサオリもまた、あり得ないリアリティを持って迫ってくる。
一気に新作落語の名作入りである。

残り時間があと7分ぐらいあった。
なので古事記を。ちょっとオーバーしますがと断って。
本の宣伝も含み。
割と短めのバージョンみたい。地噺なので、入れる脱線ギャグの量を調整すればいいみたい。
柔道で潰れた餃子耳のエピソードも脱線で入れる。

いやいや、無料だがすごい会でした。
別に変ったことやってるわけじゃないのだけど、古典も新作も、そして売り物の古代史落語も、ますます完成度が高まっていく。

無料の会掛け持ちで、合計2時間。一日寄席にいたような贅沢な心持ちです。

(上)に戻る

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。