客の自己顕示欲が高座を破壊する

暑くて飲んで寝ると、早く目が覚める。そして昼寝。
なので昨日は飲まなかった。だがやはり目が覚めて、そして二度寝。
そんなわけでブログの更新も遅くなりました。

土曜日の阿佐ヶ谷、若手の三人会「B3」の模様を2日書いた。
ひとつ、つ離れは免れた程度のお客さんに感心したことがあって。
一席終わっての拍手のタイミングが絶妙だったのである。早すぎず遅すぎず。
あたかも、客全員が一人ずつ適切な間合いを測っているのではないかと思わせる程度に。
いやな拍手というものはたちまち記憶に残るが、いい拍手のほうは、高座の感動に後れてじわじわ思い出すのだった。

客の拍手がやたら早い、それも常に早い会もあるのだ。常連がそうするのだろう。
サゲを言い終わらないうちに手を叩くのは論外だが、言い終わっているなら、早いからといって文句を付けるいわれはない。
それでもな、と思う。
結局、他の客とどっちが早く手を叩くかという競争になってしまうわけで。
サゲを言い終わった。頭を下げた。よーいドン。パチパチパチ。勝った負けた。
そもそも、なぜ競争をしたがるのか。
結局、そこに見られるのは自己顕示欲である。俺はこの噺をよく知っている。知っているのだから終わったことを他の客にもいち早く教えてやろう。
他人を対象にしているのだから、マウンティングでもあるし、教え魔でもある。

ちなみに、私もかつては早かった(フライングではない)。
自分では自己顕示欲のつもりはなかった。「いたたまれなさ回避」のつもりではいた。
演者が頭を下げているのにスムーズに拍手が始まらないと、ヘンな感じになる。それを避けたいと。
しかし、どう思うのであっても早い拍手を態度に示している時点で、それは自己顕示欲の発露である。
今では反省している。今回の会のように、ひと呼吸置いて叩けば決してヘンな感じにならないのだから。

私は自分自身、マナーについてことさらに語るべき人間ではないことは自覚している。
それでもたまに書いているのはなぜか。やはり態度の裏側にある自己顕示欲等、人間の醜い欲望に目をつぶれないからなのだと思う。
表面に現れる態度より、その背景にあるマウンティングや、他人の支配など、心理傾向が気になるわけだ。

寄席に何度か通っていれば、太神楽やマジック等、どこで手を叩けばいいかわかってくるものだ。
手を叩きたがっているがどこで叩いたらいいかわからない、他の客を適切に誘導し、率先して拍手を入れるのは、わりと簡単なこと。
そして、やってみるとこれはなかなか楽しい。
流れの適切なところで叩いていれば、悪目立ちはしないし。
ただ逆にいうと、目立たないように拍手していると、自己顕示欲は半分までしか満たされないかもしれない。せめて近隣の客に「どうだ」というところを見せつけて満足するか。それも嫌だな。

ミュージカルなぞ見にいくと、どこからか始まった拍手が会場に伝播していく。
始めた本人は自己顕示欲の人だろうか。それとも真逆の、陰のスタッフみたいな意識だろうか。
人の態度としては、後者のほうが望ましい。
まあ、芝居の場合落語と違って客席が暗いから、控えめにならざるを得ないことはあるだろう。

色物への拍手はお約束があるからわりと簡単。
落語の高座の「中手」は難しいこともある。
以前ある若手の「五人廻し」の啖呵に感激し手を叩いたのだが、演者のお気に召さなかったようでスルーされた。
スルーというか、高座に集中している側からすると、気がそれるのかもしれない。
私は入れないが、金明竹の言い立てで中手が入ると、うーんそれは違うなあと思う。
芸協のコラムにも、「この口上がうまくできると、ときにはお客様から中手(拍手)をいただけます」なんて書いてある。
でも、金明竹の言い立ては啖呵と違ってリズムよく喋ればいいだけのものだ。それで手を叩かれてもなと。
「試し酒」の1杯めは見事に飲み干すところで、手を叩きたくなって無理はない。だがやめたほうがいい。
残り3回(1回は描写されない)手を義務的に叩く羽目になる。
もっとも、中手が入らないと間違いなく白けることもあるので。
大工調べであり、がまの油である。中には時そばで待ってる演者もいる。
だから、義務的に入れるべき噺やシーンもあるのだけど。

とにかく、自己顕示欲に基づく行為はよろしくない。
ことさらに、マクラから本編に入る直前でネタを早書きする行為と同様(ネタ帳ドレミファドン)。
拍手をするんなら、ミュージカルの客のごとく舞台と一体化してやりましょう。

ただ、自己顕示欲の発露はヤメロと言っても、なかなか難しい人もいると思う。
この特効薬は、ブログ書くしかないんじゃないですかね。Xことツイッターをやる人もいるが。
そこそこ読んでもらえるようになれば、自己顕示欲は収まり、寄席のふるまいも良化すると思います。
ブログ始めたはいいが、誰も来ないとなるとこんな傷つくこともないかもしれませんが。

作成者: でっち定吉

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