昔ながらのオチ分類 その10(落語ならではの唐突なフレーズサゲを考えてみる)

2020年に始めた「昔ながらのオチ分類」シリーズ。
落語のサゲについて昔から存在する分類法を、ああでもないこうでもないとつついてみるものです。正解などありません。
既存分類に異を唱えた枝雀分類も一緒につついてきた。

人気があるシリーズともいえないが、好事家はいるもの。
検索では非常にヒットする、当ブログのアカデミック部門を支える連載です。
といって、別に新たな分類を提唱して学会に発表しようというわけではない。軽いお遊び。
第1回の考え落ちから続けて読んでくださる方はなかなかいないが。

最終回は、「シャレ落ち」という、既存の分類にない分類をひとつ作ろうと考えていた(「昔ながら」じゃないけど)。
さらにまた、別の分類候補もある。
「拾い落ち」または「合わせ落ち」という概念。
ただ、今回これについて書き始めたものの、既存の地口落ちと重なりつつもはみ出てしまい、結局のところカオスの極み。
既存の分類を荒らしてどうする。
今日はひとまず、違うことを書きます。

オチ(サゲ)の分類そのものではないのだが、いろいろ考えていて気づいた。
落語のオチって、唐突なセリフのものが多いよね、という。
唐突なオチというと「とたん落ち」というすでに取り上げた分類がある。それとはまた角度の違う話。
とたん落ちは、唐突でありよくできているとされるオチで、「芝浜」「子別れ」「百年目」「愛宕山」等。
これらも決して無関係ではないのだが、分類がどうであれ、サゲをフレーズでもってピタッと決める噺って多いよねと思ったのだ。
現実世界とは、まるで違う会話の進め方。しかしこれを言い切って頭を下げるという様式美には、非常にハマる。
今日つついてみるのは、それだ。

典型的なのは、家見舞(肥甕)。
「それには及ばねえ。さっきまでコイがへえっていた」

鯉と肥を掛けているから、分類すれば地口落ちということになる。地口はつまりフレーズだから、この唐突なサゲとは親和性が高い。
だがこの家見舞のフレーズでできたサゲ、そもそも日常会話とはかけ離れたものだ。
いったい、誰に向けて語っているのだ。
現実世界だったらこの後アニイが、「コイが入っていただって?」と聞き返すわけだから、弟分たちの秘密をバラしてしまうことになりかねない。
こういう不思議なフレーズが、非常に落語らしいなと。

ちなみにこの噺、「水持ってこい」で落とすこともあるけど、これ分類ではどこに入るんだろう。
まったくわからないし、たぶん分類不能。
でっち定吉オリジナル分類では「伏線回収サゲ」となります。

頻繁に取り上げているたいこ腹も、不思議なフレーズによるサゲ。
「皮が破れて、鳴りませんでした」
幇間の一八が、どこに向かっているかわからないフレーズを、スラッと語って噺はおしまい。

鹿政談の「切らずにやるぞ」「まめで帰れます」や、三方一両損の「おおかあ食わねえ」「たった越前」も、日常会話とかけ離れたフレーズだ。
固く進めるお白洲ものにとっては、こんなのが大事みたい。
大工調べの「大工は棟梁、調べをごろうじろ」もそうだ。あまりここまでやらないが。

崇徳院「割れても末に買わんとぞ思う」も。
真田小僧の「うちの息子も薩摩に落ちた」も。
甲府い「甲府い、お参り、がんほどき」。
青菜「弁慶にしておけ」。
火焔太鼓「おじゃんになる」。
松竹梅「お開きになっているだろう」。
それから、珍しい遠景のサゲだが、蜘蛛駕籠。
替り目のタイトルになっている、後半のサゲもそうだ。
なんで落語の世界に住むこの人たちは、こんなにアドリブで放つシャレが上手いのか。

少し作為が入るのは同じだが、似て非なる系統もある。主人公が「嘆息」して発するフレーズの系統。
芋俵の「気の早いお芋だ」とか、鰍沢の「お材木で助かった」とか。
転宅の「どうりで上手く騙りやがった」。
小言幸兵衛の「どうりでポンポン言いなさる」。
質屋蔵の「また流されそうじゃわい」。
野ざらし「馬の骨だった」。
高砂や「助け船~」。
ろくろ首「ああ、家にも帰れねえ」。
いずれも、落語ならではのフレーズ。まあ、オチを意図した小説などにも見られるけれど、落語のほうが先のはず。
ちなみに、映画やドラマでは見られないタイプ。

「転失気」の「奈良・平安時代から」も唐突ではあるが、少なくともこちらは相手に対して返答しなければならないという、明確な目的はある。
千早ふるもそう。
とはいえ苦し紛れのフレーズサゲだから、先に挙げた2通りのパターンと似てはいる。

ともかく、落語は面白いという結論。わかってるけど。
サゲも、演者がいっぺん姿勢を正して客の方を向いたり、様式美あふれる世界。
現実的には成り立たない発話でもってサゲるということを、昔からやっているのだった。

こういう面白さを見ると、最初からわかっているけども「分類」の不毛さも思い知ります。

今日はこれまで。

作成者: でっち定吉

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