神田連雀亭昼席6(立川笑二「粗忽の釘」)

半月振りの始動である。
午前中に本業の取材を終えて、神田連雀亭の昼席へ。取材と言ってもインタビューではない。歩き回ったのでクタクタだ。

トップバッターは初めて聴く人。
穏やかにさりげなく小粒のギャグを入れていく人はだいたい面白いのだが、その手法でウケないという、珍しい人。
マクラでもって、落語の稽古をしていたら立て続けにおじさんにナンパされたという話をしていた(本人は男)。
「行くわけないですけども」。
行けよ、と心の中で思う。体を張ってネタを作ってくればいいのに。

2番手の田辺凌天さんは、先日スタジオフォーで聴いてちょっと気になっていた女流の講談師。
なんだかわからないのだがリズムがいいなと。
今日は普通でした。いささかつっかえ気味だったし。
9人の客のうち、5人寝ていた。まあ、人を眠気に誘うのは、リズムがよかったからなのかもしれない。
「般若の面」という読みもの。
落語の「鬼の面」と基本同じ話なのだが、どういう関係にあるのかよくわからない。
落語が講釈からもらったのならごく普通だが、そうなのだろうか?

マクラは面白かった。
最近は本業でなく、生花のライブを中継する講談とか、北斎の足跡を歩いて回る講談とか、そんなものばかりやっている。
明日は学校寄席だが、凌天さんは講談はやらず、説明役だそうだ。
子どもたちをノセる、お姉さん役のシミュレーションは微笑ましい。
連雀亭もずいぶん通っているが、講談を聴いたのはたぶん初めて。きゃたぴら寄席は来たことがないし。
ここで釈台を使っているのを見たのは、浪曲のほうが先だ。

3番手が期待の桂竹千代さん。
コロナ禍草津温泉の客2人(外国人)マクラ。これは先日聴いたので、油断してここで寝落ちしてしまう。
目を覚ますと、八っつぁんが先生を訪ね、歌のわけを訊いている。
千早ふるである。
通常の古典落語の部分がすでに面白いのだが、さらに改作である。

過去二度聴いた噺なのだが、何度聴いてもまったく問題なく面白い。
会話のキャッチボールだけで面白いので、改作のストーリーを知っていることなど、少しもマイナスにならないのであった。
これなら4回目を聴いてもそうだろう。
私は前半から爆(苦)笑なのに他の客はそれほどでもなかった。だが、改作部分に入ってからは大盛り上がり。ウケないはずはない。
サゲだけ覚えていなかったが、さすがに三度目の今回はちゃんと認識した。
竹千代さんは圧の強い人で、これは新作や、地噺である古代史落語に活きる。
だが、この千早ふるは、登場人物2人自体の圧はあっても、演者を通すと穏やかである。こんな味もある。

面白いことに、この噺の演題、ホワイトボードに「千早ふる 唐揚げレモン編」と書かれていた。
これ、もともと私が勝手に当ブログに載せた演題なんだけども。
どうやら正式採用されたらしい。

トリは立川笑二さん。マクラが面白い人だが、この日はとっとと本編へ。
マクラの楽しい人がマクラを振らない場合は、必ず傑作である。
引っ越しの朝、亭主とかみさんがトボケた会話を交わしている。だいぶ崩れているが、粗忽の釘らしい。
不思議なことに、既存の古典落語を思い浮かべれば確かに崩れてはいるのだが、こういう噺だと思うと、実にストレートに響いてくるのである。
ただ、擬古典落語のように最初から整合性を気にして作ったものより、はるかにギャグは多いのだ。
こんな噺を、普通に語れるのはすごい。
もっと尖った噺でも、確かにこの人、こんな語りだ。面白落語なのだけども、たとえば鯉昇師の粗忽の釘とは違うのだ。
ギャグを入れた噺を一度作り上げたら、今度はメリハリを削っていく方針みたい。

なんとなく、既視感のある一席。
でも、笑二さんからは、記憶をさかのぼってもやっぱり初めてだ。
既視感の理由は、犬の喧嘩にかかわって、タンスを担いだままひっくり返るエピソードにあるだろうか。あまり出ない、これを強調しているので。

オリジナルギャグがすごい。
しかしながら、メリハリを付けずにさらっと語ってくる。
冒頭、タンスの上に「針箱」「おまる(親父の形見)」と「ひょうたん」を載せるくだりからもうやられた。
全部亭主が、各アイテムについてノリボケをかます。
おまるなんてアイテム、さらっと盛り込むから噺が持つのだ。嬉々として入れ込んだら、まあ潰れるでしょう。

犬の喧嘩のくだりのギャグがすごすぎて。
忘れる前に書き残したいけども、いささか野暮なので泣く泣く省略。

ようやく引っ越して、落ち着く前に釘を打ち込んでからもハイパー笑二ワールド。
隣の家には、越してきたもんだと正体をバラしている。
以前別の人の噺で、バラした結果(向かいの家を省略したかったかららしい)、まるでつまらないものを聴いたのだが、ひと味もふた味も違う。
あまりの非常識振りに、隣人がかみさんと引っ越そうと話し合っている。

語るなれそめが、自分のではないところもノックアウト。

うーん、読者の方には、まるで内容がわからないと思います。すみません。
笑二さんの最高傑作ではないかと思う、トリネタ30分でありました。
珍しく続かないで1日で終わってしまうが、後半2席は本当にすばらしかった。

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. いらっしゃったのですね。
    私は、ワンコインからの居続けでした。
    疲れて、うとうとしていたかもしれません。
    ○○さんは、何回か聴いていますが印象に残りにくい感じです。
    凌天さんは、同じ札幌出身なので、応援していて、かなり聴いています。息継ぎで言葉が消えてしまうことが残念です。
    竹千代さんのこの改作、何回も聴いていますが、笑えます。
    笑二さんは、まさしく笑二ワールド、他の人とは違う手法ですが、お客さんの反応を見ながら、毎回のように変えていて、凄いと思います。

    1. 9人のお客さんのおひとりでしたか。
      私も、ワンコインも検討しました。
      ○○さんの名前書いちゃダメです。「私は誰でしょう」にしてるので。管理者権限で伏字にさせていただきましたが悪しからず。
      まあ、連雀亭の番組表見ればバレますけどね。
      それでも、しばらく経つともうわからなくなりますから。
      笑二さん、ストレートに楽しい人だと思いますけども、現状それに比例した人気まではないのが不思議で。竹千代さんもそんな感じがあります。
      ともかくなかなか楽しい午後でした。

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