鈴本演芸場9(その4・柳家喬太郎「夢の酒」)






橘家圓太郎師は、寄席の出番について。
こんな話よくするけども、毎回前後の人は違うわけなので、内容も違う。
出番はお席亭が決めるものです。
前後の人が嬉しいときもありますが、そうでないときもあります。今日みたいに強烈な人たちに挟まれてますとね。まさにいぼめい(客、爆笑)。
自分の出番の前は、なんの噺を出そうか、準備をするわけです。
掛かってるのが知っている噺ならいいんですが、知らない噺だとファンに戻っちゃうんですね。なんて噺なんだろうと楽屋で聴いていて、準備ができませんでした。
圓太郎師は、床屋を振って浮世床。
本(太閤記)のくだりのみ。

圓太郎師はよく、古典落語に通常出てこない「でしょ」という語尾を使う。これがたまらなく面白い。
軽い浮世床は、ヒザ前にピッタリだ。
ちなみに本でなく、「夢」を出してたら、喬太郎師は夢の酒できなかったことになる。

翁家社中は今日は笑いなし。
先日西新井で初めて見た二枚扇を寄席でも見て、ホッとする。
時間が押してるのだろう、傘の回し分けはなし。

落武者が釈台を出して、トリは喬太郎師。
座布団を折ったあいびきはない。調子いいときもあるものか。
ありがたいことに、今年は喬太郎師5席め。

今日は昼トリの千秋楽でして。
私のことをご存知でない、たまたまいらした方もきっとおいででしょう。
そんなことないだろうと思われるかもしれませんけど。
このあいだ、「私のこと知らない人?」って手を上げてもらったら、3割上がりましたからね。自分の会なのに。

昼のトリはのんびりしてるのがいいですね。
夜だと、もうちょっとギラついてるんですよ。どんな噺が出るのかって。
あと企画もののときですね。
それに比べると今日はくつろいでます。(背中をそらし)こんな感じです。
皆さんお時間ありましたら、このあとカラオケ行きません?

それから釈台のわけ。
喬太郎さんの下半身が見たかったのに!というお客様には申しわけありません。

学生時代のことを思い起こしますとね、こんなところに上がっているのはウソみたいだなと思います。
プロになる気も、なれるとも思っていませんでしたし。
こういうのも、夢がかなったことと言っていいのかもしれません。
夢にも色々あって、実際に夜見る夢もあります。
私、扇辰さんと、菊之丞さんと3人で、世田谷の街を自転車で走った夢を見ました。
あれ、何だったんでしょう。深層心理は不思議なことをしますね。

実際に喬太郎師の見た夢が、もうひとつあったような気がする。

古典落語だろうとは、根拠なく思っていた。
当席はすべて古典らしいのだが、事前にそれを知っていたわけではない。ただ、私が寄席で聴く際はだいたい古典に当たるもので。

夢の噺ね。
天狗裁きだろうか。
あまり好きじゃない。まあ、キョンキョンの天狗裁きは聴いたことないし、いいかと。
かみさんが亭主を起こしている。やっぱり天狗裁きか。
いや、亭主の起き方が違う。なにやら礼を言って、それから驚いている。
「惜しいことをした」

あれ、夢の酒だ。
こちらは古典落語の中でも筆頭の好きな噺。色っぽくて、人情もあって、酒飲みの欲求が出る。
幸い、先に親子酒や試し酒も出ていない。

しかし不思議だ。天狗裁きと夢の酒、かみさんが亭主を起こすのは共通しているが、雰囲気はそもそも大きく違う。
だから冒頭から取り違えることなんてないはずなのだ。
でも喬太郎師だと、「そんな天狗裁きだってあっていいよね」との誤解が優先してしまうのである。
芝浜が始まるのかと思ったら芝カマだったときの感覚を思い出した。
どこかに、古典オンリーの人と違う空気が漂っている。

工夫いっぱいの夢の酒。
ベタな工夫に、劇的な工夫。どちらも効果的。
おかみさんのお花(宮戸川と一緒だが、この程度でツいたことにはならない)が悔しさのあまり上げる「キー!」という大声、夢の酒聴いたことのない人も想像できるでしょう? それです。

夢の酒で納得いかない部分が、夢から覚めた若旦那が、女房の前でどうしてそんなに嬉々として夢の話を語るのかということ。
そら、かみさん怒るわな。
だがこの若旦那、ぽつぽつ語るうちに、タガが外れてしまったらしいのだ。
夢、つまり一種の妄想を語り、それを聞いている人間がいるために夢の世界を追体験し、そこに浸ってしまったのだ。
楽しさがこらえられないのだ。

最近喬太郎師から聴いた「普段の袴」を思い出した。
みんなが苦労する、「さむらいの真似がしたい男」を、師は最速で描き出す。
夢を語る若旦那も、喬太郎師はてらいなく「そういう男」として描く。

大旦那がやってきて、若旦那に口を開かないよう命じた上で、お花からヒアリングする。
この際、再現シーンのセリフが100%大旦那!
お花のセリフは一切描かれず、大旦那ひとりがなるほど、向島かとうなずいている。
お客は、先ほどの若旦那の夢を、違う角度で追体験することになる。
お花でなく大旦那が語ることで、再現は穴だらけになり、そこを客が能動的に埋めていく。
感動しました。

既存の夢の酒で、ヘラヘラ笑う若旦那にも納得いかないところだが、でも今回なんだかわかる。
自分の夢にみんなが付き合い、真剣に語り合っている状況が、たまらなくなったらしい。
ただ喬太郎師でも、明烏と同じ「お前が笑ってお前が泣いてあたしが怒って」のフレーズだけはなぜだか好きじゃない。

あとは一本道。
大旦那が若旦那の夢の世界に出現するシーンは、鉄板でウケるところ。
キョンキョンがやると、どことなくSF感が湧くから不思議。
大旦那が夢に入るまでは非常に速い。そのいっぽう、淡島さまへの願掛けのセリフはわかりやすくしっかり長い。

今まで聴いた夢の酒のベストじゃないかと。
これに限らず、最近の喬太郎師の古典落語はたまりません。

楽しい鈴本でした。

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作成者: でっち定吉

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