立川吉笑「一人相撲」
吉笑さん、先の「親子酒」の際に語っていたが、梶原いろは亭の出演はこの日が初めてだそうである。
いろは亭、スタート時は円楽党中心だったのだが、現在は四派まんべんなく顔付けされている。
東京の隅っこでひっそりと運営されているが、寄席の未来を先取りしている寄席なのだ。
四派混合なのは神田連雀亭も同様だが、あちらは二ツ目専門である。
いろは亭だと、週末には真打も出る。週末は円楽党中心ではあるものの、ちゃんと他派の真打もトリを取る。
いずれ週末にも来たい。料金はそんなに安くないけど。
トリの吉笑さんは、前回、麹町の落語会で聴いたのと同じ「一人相撲」。
できれば他の新作が聴きたかったのだが、一人相撲は楽しい噺で、嫌ではない。恐らく初めて登場の舞台でも、鉄板だと踏んだんだろう。
江戸時代を背景に作った新作落語。全編上方ことばであり、つまり上方落語である。
こういう落語は、「古典落語を増やす」という目的で作られることが多い気がする。
新作によって古典落語を増やすというのは矛盾しているようだが、そうでもない。
有名なところでは、「試し酒」なんていうのはもともと新作落語であるが、現代では古典落語のラインナップに普通に加わっている。こういった種類の落語を生み出すことは可能。
三遊亭圓朝の作った落語もそうだ。死神、芝浜、文七元結、鰍沢などなど。
だが吉笑さんの「一人相撲」は、登場人物の動かし方からして、将来の古典落語に加わることは、まずないだろう。
新作落語であることを知らずに聴くと、???かもしれない。
先に聴いた親子酒の楽しいクスグリもそうなのだが、吉笑さん、時代設定と矛盾する設定は作らない。
江戸の相撲好きだが、商売に専念するため今回から江戸に下るのを止めた旦那。だが、江戸の本場所のことが気になって商売が手につかない。
その旦那のために番頭があらかじめ命じておいたので、奉公人たちが江戸大坂間を5日で走って江戸の相撲の模様を伝えてくれる。
設定、そんなバカなと思う一方、飛脚もこのぐらいの日数で東海道を走り抜けたのである。
吉笑さん、京都出身で京都教育大学中退だから、舞台を京都にしてもよさそうなのだが、大坂にしている。
基本的な部分は押さえておいて、あとはやりたい放題の噺。だから古典落語にはなりにくい。
旦那に対しては非常に忠誠心の高い奉公人たちであるが、揃いも揃ってピントがずれていて、肝心の相撲の模様は旦那に一切伝わらない。
アホなのだが、愛すべきアホである。ちゃんと上方落語の伝統も引き継いでいるのだ。
アホな奉公人が相撲の模様を語るが、最初は臨場感を持っているのに、どんどんズレてくる。なぜか行事・木村庄之助の動きばかりをチェックしている。
噺を聴いている客に、おかしいぞという気持ちが徐々に積み重なってきたところで、旦那のツッコミがジャストタイミングで入って大爆笑。
人に情景を伝える噺家の役割がいかに素晴らしいか、これを間接的に誇る噺でもある。
吉笑さん、円楽党の両国寄席に出ないかな。
円楽党と立川流は別に対立しているわけでもなんでもないのだが、両国寄席に顔付けされている立川流の噺家は、現在、ぜん馬、志遊の両師だけのようだ。
両国寄席では、花筏、半分垢、稲川、阿武松など相撲噺がいつも聴ける。そこでぜひ、一人相撲を披露して欲しい。
今回も満足の梶原いろは亭でありました。