神田連雀亭ワンコイン寄席50(上・桂鷹治「一目上がり」)仕込み損ねても絶品

19日木曜日はハシゴである。
第一弾は今年初めての神田連雀亭。
トップバッターが桂鷹治、トリが真打昇進を控えた春雨や風子。
2番手の人だけちょっとどうだろう。でもまあ、行ってみる。

受付にはお着物の風子さん。
披露目の共通チケットはちょっと買えないが、「落語ハ百席」の招待券をいただいたので一度行ってみようと思う。

2番手の人は前説で「おはようございます」。
受付にいた風子さんだけおはようございますと返事していた。

鷹治さんから。
登場時、よそ見をして足を高座の角にブツけ、あいたた。ちゃんとギャグで回収していた。
いつもの挨拶。我々芸人がバカで、それを見にくるお客さんも…
ちゃんとシャレですからねとフォローを入れるのが丁寧。これ、本編に出てくる八っつぁんも踏襲する作法。

お正月はお年玉を前座に渡すので出費が増えます。
われわれ芸術協会では、平等に渡します。ひとり千円ですけど、前座も多いので出費はかさみます。
今一番カネ持ってるのはあいつらですよ。20万円になります。
いっぽう落語協会では、会った前座だけに渡せばいいというルールだそうで。
出る芸人の多い、新宿、浅草に入った前座さんは懐豊かだそうです。20万になります。
落語協会の場合、気の利いた前座さんは鈴本に入るんですね。
鈴本は芸人が少ないので、前座さんも儲からないそうです。10万にしかなりません。
あちらの協会は、できる前座の実入りが少ないんです。
われわれは公益社団法人ですからね、平等です。

震災についても。
今の我々にできるのは、日々をしっかり楽しく過ごすだけですね。
いずれ落ち着いたら、現地でチャリティ落語会もできるかもしれません。それまではプロに任せましょう。
高座のほうも我々プロに任せてください。まあ、中には期待に応えられない芸人もいるかもしれませんが。
いいこと言うよね。

隠居を八っつぁんが尋ねてくる。正月だから一目上がりだろうか。
でも、道灌でも不思議ないなと。芸協では聴いたことのないパターンだが、つるにだって行ける。
鷹治さんは珍品の多い人であるが、このスタンダード演目が心地いいのなんの。実にもって幸せ。
隠居の顔で通じをつける八っつぁんなんて擦り切れたやり取りで、思わず笑う。楽しいのでね。

ギャグを盛り込む方法論ではない。
粗茶から、隠居さんは粗顔だなんて言うが、その程度。
この欲張らなさがたまらない。
教わったツッコミを全部入れたがる「スタンプカード芸」の二ツ目は見習ってほしいものだ。

普請した隠居の床柱は竹。節を抜きましたかと八っつぁん。
燃えたら爆ぜて、うるさくてしかたねえ。ここでマクラの「シャレですから」が再現される。

掛け軸(かけじ)を見せてもらう八っつぁん。
知らないやり取りが二つ入っていた。「仇を恩で返す」と「恩を仇で返す」。
仇を恩で返すのは、梅の花が手折る人にも香るという一句。
恩を仇で返すのは、かぼちゃ。つるを巻きつけて大きくなり、重みで塀を倒してしまう。
得した気分。

面白かったのは、「へこの間」という八っつぁんに隠居、「床の間だよ。おまえさん、さっき床柱って言ってたよね」。
ここから、一目上がりに入る。しなわるるだけはこたえよ雪の笹。

いい賛を教わる八っつぁん。
「八五郎さまって言う人は」「いるのかい」
こんなスタンダードなやり取りが、またもたまらない。なんでこんなに楽しいのだろう。

大家のくだりで、ちょっと噛む鷹治さん。
「よこちょの金太はなっと売り」
「余計なこと言うんじゃないよ、間違えるから」

さらに医者の先生を巡回する八っつぁん。
一休禅師の「悟」は、ちゃんと覚えたいものだ。いずれ「落語のフレーズ」シリーズで取り上げよう。

さて八っつぁん。
三、四、五と一目上がりの法則を発見したのをつぶやかないで、アニイの家に行ってしまう。
たぶん、この時期しかやらないのでうっかりしたんでしょうね。あまりにも自然で、聴いてるすぐ私も気づかなかったけど。
七福神の絵に八っつぁん、前フリなく「いいロクだね」と言ってしまってさすがに私も気づいた。

ヘタクソがやれば大失敗だが、いいじゃないですか。
前座噺かくあるべしという見事な一席だったのは本当です。

2番手の人は、大声でたっぷりタメを作っておいて、大して面白いことを言わないのがよくない。
これは三平イズムである。三平の作法の逆を行くだけで上手くなると私は思っている。
面白いことが言えないなら、モードのほうを合わせばいいのに。
自分がヘタだという自虐もよくない。
寝てしまいました。

トリの風子さんに続きます。もしかすると、このあと行く会を先に出すかもしれませんが。

作成者: でっち定吉

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