ざま昼席落語会3(中・橘家圓太郎 家庭円満のマクラ)

続いて橘家圓太郎師。
世代も一門も違う、扇遊師との二人会は珍しいのでは。
座間に最初にやってきたときも圓太郎師だった。

ハラスメントの話。
噺家は、楽屋で立膝ついてバカ話をしている。すると、裾からぶらぶらしているものが見えたりする。
これを嫌がるのは女の前座さんだけではない。男でも嫌がる人が人がいて、立派なセクハラ。
噺家の大好きな猥談も、男で嫌がるものもいる。
平和主義者の圓太郎師としては、無理はしない。

ハラスメントだらけで閉塞的な世の中だという嘆きでは、高座の上で出すシャレにはならぬ。
自分の内側に話を持っていくのが、さすが圓太郎師。ちなみに平和主義者は、あとの話につながる。

師から聴くのを楽しみにしている、娘さんの話が出た。最初に聴いたときは小3だったが、もう6年生で来月卒業。
私はこの年にして小学生の娘がいるのですと圓太郎師。お客様も驚く生殖能力です。
娘はピアノを習っている。自分ではもう、才能がないことはわかっているが、母親が喜ぶから続けている。
学校では大谷ノートをつけさせられている。今から将来の目標を見据えて、今すべきことをノートに書いていくのだ。
将来の夢を尋ねられると、子供はすぐ親の喜ぶことをいいがち。ピアニストになりたいとかバレリーナになりたいとか。無理に決めることはないと父。
ただ大谷翔平と君と、何が違うと思うと圓太郎師。娘は答えて「親かな」。

人というものは、すべて完璧ということはありません。
私は家内を、顔で選んでしまいました。まあその分、中身はどうしても。
顔で選んではいけません。今会場にいる方たちよりもずっといい顔ですが、中身は皆さんに遠く及びません。
私はいつも朝早く目を覚まし、犬の散歩をします。
帰ってくると、リビングで新聞を読みます。家族に気を遣って、灯りは付けません。デスクのライトだけで新聞を読んで、高座のネタを仕込みます。
自分で小さな鉄瓶で湯を沸かし、ぬるめのお茶を入れてゆっくりいただきます。至福のひと時です。
でも、たまに家族が早いときもあるんですね。娘の行事などで。
家内が2階から降りてきて、暗いリビングで新聞を読む私を見つけて言います。「なんで電気点けないの?」。
私は平和主義者なので、家族に気を遣ってるからだとか、そういう反論はしません。すると怒られますから。
私は逆らいません。妻によく教育されているので。
妻が言います。「お茶淹れようか?」
私には私の茶の濃さ、温度、そういうものがありますから、自分でやりたいのです。でも逆らいません。「ありがとう」と。
茶筒から急須に茶を入れてくれますが、中の茶袋がねじれていたのでしょう。これは最後に使った私のせいかもしれません。
家内はキャアと声を出します。ドバっと入れてしまったようです。
どうしたのと声を掛けると、なんでもないと。
そして、急須に入れ過ぎた茶を茶筒に戻そうとします。でも急須は濡れていますから、茶は張り付いたままです。
今度は鉄瓶の湯を入れてくれようとしますが、ああいうものは、じかに触るものじゃありません。「アチッ」と声がします。
慌てて、蛇口から冷たい水を流している様子です。手を冷やしているのでしょう。
しかし、手を吹くタオルを前日洗ってしまったようでその場にありません。なので手を振り回します。そうすると、最近の蛇口はレバー式ですから、振った手が当たって、「イタッ」。
やっと茶ができて、持ってきてくれました。広げた新聞紙の上に。
最近の新聞紙はインクがにじみませんから、濡れてもしっかり記事も読めます。新聞紙の上に置かれたお茶に、ありがとうと言います。
しかしお茶が、なみなみ注がれています。こんなものは、6分程度でいいものでしょう。でも、逆らいません。
湯飲みを触って、今度は私が「アチッ」。

めちゃくちゃ面白かった。立場は違うが、これも一種のかみさんと甚兵衛さんか。
しかし後で振り返って思ったのだが、ここに噺家の修業のすべてが隠されているなと。
噺家は楽屋で、師匠がたの茶の好みをすべて覚える。出し方にも作法・配慮というものがある。
修業を踏まえ、気遣いを内面化してきた圓太郎師からすると、おかみさんの配慮なんてレベルが段違いのものなのだ。
間接的な圓歌批判をここに読みこむのは考えすぎだろうか? でも、一方的な配慮を求める姿勢への批判に聞こえなくもない。

マクラだけで1日埋まってしまいました。
続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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